アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
4にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
4
-
ある晴れた日、ニヒトがジーグの元へ連れてきたのは、可愛らしい巻き髪の女性だった。
「初めまして」
「ああ、初めまして……」
「彼女も学生なんだ。俺たちと学部は違うけど、大学の子だよ」
ニヒトは柔らかく微笑んで言う。ジーグの前では、滅多に見せなくなった笑顔だった。
数分、他愛もない話をした。女性はなかなかの知識人で、話題が豊富だった。話すのは楽しかったが、ニヒトが望むような関係にはなれそうもなかった。
「どういうつもりだ」
女性が手洗いに立った時、ジーグはニヒトに問うた。尖った口振りだった。
「どういうつもりも何も、恋人が出来ればアンタの病気が治るかもしれないだろ。もし完治出来なくとも、俺なんかに頼らなくても良くなる」
コーヒーを飲み、ニヒトは答えを返す。ジーグのそれとは対照的に、ニヒトの表情は晴れやかだった。
「あの子、アンタの写真を見せたら、会いたいと言ってきてさ。話も合うみたいだし、付き合ってみたらどうだ」
「無理だ」
「何でだよ」
「無理なもんは無理だ」
「自分の病気が治らなくても良いのかよ」
「……ああ」
予想外の肯定に、ニヒトは目を見張る。
「ニヒトと毎日キスが出来るなら、『キスキス病』なんて治らなくて良い」
財布から紙幣を1枚取り出しながら、ジーグは言った。ニヒトは言葉を失う。
「じゃあな。今夜も宜しく頼むぜ」
「おい、待て!」
ニヒトが止めるのも構わず、ジーグは彼に紙幣を押し付け、喫茶店から出て行った。
草木も眠る丑三つ時、ニヒトはいつものように自宅の鍵を開け、ジーグを迎え入れた。
「鍵を開けてくれねーかと思った」
「そうしたかったけど、俺の家の前で死なれるのは御免だからな」
チャリ、と手の中で鍵を転がすニヒトの表情は、言わずもがな強ばっていた。ジーグを部屋に通し、明かりを点ける。
「アンタが『キスしてくれるような相手がいない』って言うから、渋々受けたことだったのに。病気も嘘か」
「病気は本当だ、医者の診断書もある」
「厄介だな……」
ニヒトはソファーに腰掛け、うつ向いた。
「アンタ、卑怯だ」
「解ってるよ。──なあ、そろそろキスしても良いか。けいれんが出そうだ」
ジーグの唇は、ぴくりと不自然に震えた。あと数分放っておけば、彼の言うように症状が出るだろう。ニヒトは仕方なさそうに頷くと、ジーグの口づけを受け入れた。
「アンタ、これからは夕食後すぐに来いよ。あの騒ぎのせいで俺たちの関係は皆にバレちまったんだから、前みたく深夜こっそり来る必要も無くなったろ」
深夜に来られる方が迷惑だ、と続けたニヒトは、ジーグの緩んだ頬に困ったような表情を向けた。
「嬉しそうな顔するなよ」
「悪い」
「アンタ、本当に最低だよ」
ニヒトは自分の横に置かれたクッションを手に取り、ジーグに投げつけた。バスンッ、と、重い音がした。
「友達だと思ってたのに」
ニヒトの言葉は、容易にジーグの胸をえぐる。
初めは友達だった。一番と言ってもいいくらい、仲の良い友人同士だった。
それも今や、過去の話だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 11