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数日後、あの記者の書いた記事が新聞に載った。そこには医師からの取材から得た完治の前例と、それを踏まえた医師の持論、そのほかにも原因と治療法の仮説などが書かれていた。
「恋の病……か」
ニヒトは大学のキャンパスのベンチで、フルーツコーヒーを飲みながら、その記事を読んでいた。先ほど購買で手に入れたその新聞は、残りあと1部というところだった。自分の知り合い──それでなくとも、同じ大学に通う者が奇病を患っているとなれば、興味を持つのが大半だろう。
皆のその野次馬精神のせいで、ニヒトとジーグが毎晩キスしていることが瞬く間に知れてしまった。2人は冷やかされたり嫌悪されたり、知人から距離を置かれたり。
一部の人間はそうでは無かったが、ニヒトのストレスを和らげられはしなかった。ジーグだって、良い気はしなかった筈だ。なのにカモフラージュさえしようともしないのは、ニヒトへの愛がそれだけ深いということか。
「くそっ」
余計なことを考えてしまったせいで、ニヒトは記事をちっとも読めていなかった。新聞と共に買ったフルーツコーヒーも美味くない。ジーグが好んで飲んでいたが、もう買うのは止めよう。
しかし何故こんなものを買ってしまったのだろう。友人だった時でさえ、1口貰おうとも思えない代物だったのに。ニヒトは自分自身を見失った。
あれからやっと落ち着いたニヒトは、新聞の内容を頭の中に滑り込ませた。
『病因に関しても幾つかの仮説があるが、一番有力とされているのは、誰かに片想いをし、その気持ちが限界を超えた時に発症するのではないか、という説だ』
「限界を超えるって、アイツ、どれだけ……」
頬が微かに染まる。ニヒトはその熱を振り払うように、髪を掻き上げた。
『そして、他国では、恋人が出来た途端に完治した前例がある。ただし本当に愛している相手でないと、治療の効果が無い──という論がある。この論が正しいとすれば、くだんの相手と両想いになるか、別の相手を見つけて恋愛を成就させるしか完治の方法は無い』
「じゃあ今のところ、俺がアイツを好きにならなきゃ完治は出来ない、と。ふざけるなよ」
周りに誰もいないのを良いことに、新聞に大きな独り言をぶつけた。今は午後イチの講義の時間中で、講義を受けていない者はほとんど昼食を摂りに行っている。皆新聞を読みながら、食堂に溜まっているのだろうか。そう思うと、ニヒトはより憂うつな気分になった。
同性愛者だと軽蔑されるのは、嫌で嫌で堪らなかった。ニヒトは完全なる異性愛者だ。けれど女と付き合うより、男と馬鹿をする方が気楽で楽しかった。
以前彼女を作った時も、友人との約束ばかり優先してしまい、結局別れてしまった。それ以来ニヒトに恋人はいない。今作ろうとしても、好んでニヒトと付き合おうとする女はいないだろうが。
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