アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
涙のキス①にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
涙のキス①
-
(葵語り)
期末テストが終わり、あと少しで夏休みに入ろうとしている頃だった。
俺は人生で初めてテストで赤点を取った。
くしくもそれは熊谷先生が担当している現代文だった。
それが彼には気にくわなかったらしい。
「伊藤君、現代文赤点ってどういうこと?」
そして俺は熊谷先生に怒られている。
別に、俺が赤点を取ろうが一切関係無いと思うのに説教は続く。
「君さ、いちおう補習って目的で、ここでお昼ご飯を食べていることになってるんだよ。
国語がこんなにできないとは思わなかった。
赤点取るなら教えとけばよかったし。」
「……はい。」
くどくどくどくど言われた。
「夏休みになったら、補講を受けて、追試があるから。もれなく夏休み中でも俺に会えるな。よかったね。」
ワザと嫌味な言い方をする。
熊谷先生は意地悪だ。
「………しょうがないじゃん。」
「今、なんか言った?」
「何も言ってません。空耳です。」
できなかったものはしょうがない。
だって国語は苦手だから。
遠くの方で予鈴が鳴った。
説教モードの熊谷先生から早く逃れたくて、素早く片付けをして生徒指導室を出ようとした。
ドアを開けようとした時、廊下から聞き慣れた声が聞こえてきた。
その内容に思わず固まり、動けなくなる。
「猪俣先生、赤ちゃんは元気?」
「はい、元気です。毎日よく寝てます。可愛いですよ。」
話し声からして、先生と女の先生のようだった。楽しそうに談笑している。
「奥さんは?育児に疲れてない?」
「疲れているみたいで。俺も手伝っているんですけど、なかなかですね。母親は大変みたいです。」
久しぶりに先生の声を聞いた。
奥さんの手伝いとかするんだ。
奥さんはどんな人なんだろう。赤ちゃんは男の子?女の子?
奥さんは、綺麗なのかな?
奥さんは…………
気が狂いそうになった。
自分が今まで抑えていたものが、すべて溢れて出てきそうになった。
考えないようにして、避けて通っていたものが一気に押し寄せてきた。
先生の家、家庭、家族。
せんせい……
ずっと聞きたくて聞けなかったこと。
恐くて口にすることすらできない。
先生から連絡を待っているだけの、体だけの関係。
俺は先生の何ですか………
いつの間にか唇を噛み締めていたらしい。
口の中は涙と鉄の味がした。
「我慢しなくていいから。泣いていいよ。」
突然、後ろからぎゅっと抱きしめられて、俺は困惑する。
ふわりと煙草の匂いがした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 456