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絵画に隠してにしおりをはさみました!
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絵画に隠して
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初めて会った先生というのは無愛想で神経質そうな男だなと思った。私が挨拶しても了解してくれたのかそうじゃないかわらかないような返事しかしない。かと言って僕が勉強を始めるとそそくさと出ていってしまう。しかも仕事道具一式をだ。
僕が厄介になっている先生というのは画家である。まだ世に名前も出てない底辺画家らしい。確かにあの無愛想な見た目ではパトロンもつくはずもない。
先生の身の回りを見ていると意外とお人好しである。お金がないのに困っているのにあげたり食料も提供していたりするのだ。おまけに絵もタダであげてしまう。どれだけ優しいのだろうか。最近わかったのは僕が勉強しているとこそこそ出ていくのは絵の具の臭いとモデルの裸体を僕に見せない為だったようだ。
いつしか先生は僕が勉強しているときも部屋から出ていかなくなってしまった。噂ではモデルと恋愛していて愛想を尽かされたから出ていったとか駆け落ちされてしまったとか騒がれている。でも僕が見ている限りではモデルは僕に興味があり、先生とはビジネスライクに接していた。モデルながら小遣いを稼がなくても良さそうな服装もしていた。だから先生とモデルはそんな関係では無かったと僕は考えている。
僕が勉強している姿をずっと見てスケッチブックに描いている。実は僕は先生の近くにいながら画材の事は全く知らないのだ。スケッチブックみたいなものとしておこうか、それに炭で描いている。先生は売れない画家だけれども絵は上手いと思う。何度でも言うが先生は底辺画家だ。そして僕には全く絵画というものは知らない、てんでのド素人だ。
「私はこの部屋を出ていくのだが、君は此処を好きなように使ってくれ給え。」
「ハア、よろしいのですか。」
「田端に小さなアトリエを借りようと思っているから、気にしなくて良い。そうだ、君の住所を教えてくれないか。」
私はノートを破って先生に渡した。先生はにっこり笑って受け取っていった。
それから僕は先生を見ていない。
噂では先生はこの前発表した絵が底辺画家とは思えないくらい売れたらしい。そして結婚して画家のまま不自由ない生活をか送っているそうだ。
先生が売れた同時期に僕の元には名前のない手紙と絵が送られてきたのだった。手紙の内容はよくある元気にやっていますかとか不具合はありませんでしょうかとかまあそういう類の話で次からは内容は普通だが少女が熱烈なラブレタアの様なそんな手紙だった。僕は当たり前のように戸惑った。絵をもう一度見るとそれはこちらを愛おしい様に眺めている少年の絵だった。僕は胸騒ぎがしてもう一度手紙を読み直した。
『私の制作意欲は貴方様が蘇らして下すったのです。世間に発表したのは少女でしたけれども私は貴方様に私が貴方様を想った絵画をお渡ししたいと思い差し上げます。』
丁寧な字で一字一字書かれていた。女性の様な、けれども力強い字で、丁寧に書かれていた。僕はこの文章を読んで己惚れかもしれないが先生が僕を想って書いたのだと考えている。そしてこちらを愛おしい様に眺めている少年は僕だ。僕は呻いた。
「アハハ、先生は莫迦者だ…好きだったなんて…。」
けれども涙は溢れるばかりであった。
現在わかったことだけれども、先生はあの一週間後に赤紙がきたそうだ。
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