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15にしおりをはさみました!
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15
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一瞬で頭が冷えた。
昨日の晩、何度「好きだ」って告げても、返事してくれなかったの思い出す。迷惑だったのか。そうだとハッキリ言わねぇのは、七瀬なりの優しさか?
「……いや、悪ぃ。何でもねぇ」
顔が強張んのを自覚しつつ、差し出した名刺を引っ込める。
気まずさに顔に血が上って……けど、それをぐしゃっと握り潰す前に、七瀬が腕を掴んで引き留めた。
「まっ、待って。貰う……よ」
ドモリながらそう言って、それからハッとしたように手を離す。いつもジムで見かけるクールさはなくなってて、オレの知ってる七瀬の顔が垣間見えた。
名刺を受取った七瀬は、また一瞬戸惑って、それをクリップボードに挟みつけた。
「この服、ポケットがないし。仕事中だ、から……」
ごにょごにょと気まずそうに言い訳されると、「そうか」と察してやるしかない。確かにオレだって、ジムでトレーニングしてる間に、何か渡されても困るよな。
ジャージとかならポケットもありそうだけど、黄緑と白のスタッフの服には、胸ポケットすらついてねぇ。
「そうか、お前が女から貢物貰わねーの、そういう理由もあるんだな」
何しろ仕事中だ。貰ったプレゼント持って、指導やらレッスンやらに行くのも困る。オレだって会社で、大量の資料持って会議室に向かうっつー時に、プレゼントやら何やら渡されても困る。場所とタイミングを考えろっつーことだよな。
「貢物、って……」
七瀬は居たたまれねぇって顔で呟いて、首を振った。ポケットの有無とか、それだけじゃねぇ、って。
けど、他にどういう理由があんのかは、残念ながら訊けなかった。すぐ向こうのスタジオのドアが開いて、中からわいわいと騒がしく、10人くらいの女が出て来たからだ。
「きゃあ七瀬君、おはようございます」
「七瀬君、おはよう」
2、30歳くらい年上のオバサンらが多いけど、その娘とかだろうか、20歳前後の女子もいる。
「おはようございます」
慣れた様子で挨拶を返す七瀬は、爽やかな笑顔だ。オレにはそんな風に笑わねーくせに。そう思うと、モヤッとした。
それにしても、ホント人気あるんだな。人当たりがいいからか、格好イイから? 可愛いから?
汗だくの女どもに紛れながら、七瀬がスタジオの中に入ってく。
ただ、扉をくぐる直前、ちらっとこっちを向いてくれたから、オレは苦笑して手を挙げた。
「じゃーな、オレ、一旦帰るから」
オレの言葉に七瀬は小さく口を開け、けど何も言わねーでこくりと1つうなずいた。
キッパリと向けられた背中を、もう何回見ただろう?
この先、何回見せられんだろう?
ほろ苦い思いに、顔をしかめた時だ。
「あらー、イケメンお兄さん、おはよう」
馴れ馴れしく声を掛けられて、何かと思って目を向けると、見覚えのある姐さんが横にいた。
「ああ……はよっス」
名前何だっけ、と考えながら挨拶すると、ニコニコ笑いながら腕を取られた。
「八木君だっけ? 26歳独身、カノジョなし!」
姐さんに高らかにぶちまけられ、周りにいたオバサンたちが「きゃー」と騒ぐ。
怒鳴る訳にもいかなくて、引きつった顔で愛想笑いを浮かべてると、更に声を掛けられた。
「七瀬君ともう仲良くなったの?」
ズバッと訊かれて、ドキッとする。
元々知り合いだった――とか、ホントのコト言ってもいーのかな? けど、それだとやっぱ、この前の態度はおかしいよな。
昔付き合ってたことも、キスやセックスまでしたことも、口に出す訳にはいかねぇ。
「昨日一緒に飲みに行ったんですよ」
当たり障りのねぇことを言って流そうとしたら、賑やかな笑い声とともに、「いいわねー」って言われた。
「男同士だから」
「同年代、独身同士だからかしら」
「あと10年若かったらねぇ」
きゃあきゃあと口々に話しかけられ、圧倒されて苦笑する。
七瀬もいつも、こんなんなんかな? これが毎日だと、疲れるよな。
辟易しながら階段に向かうと、なんでか姐さんもついて来た。
「ねぇねぇ、七瀬君とどんな話したの? 恋バナした?」
「いや……」
恋バナ、って。興味津々の顔で訊かれても、答えようがねーっつの。勘弁してくれ。いい人だと思うけど、やっぱ苦手だ。
「アイツ多分、今、恋人は……」
恋人は、いらねーんじゃねーっスか?
言いかけた言葉に重なるように、「ズルい!」って声がぶつけられたのは、その時だった。
「ズルい! ズルい! 男同士だからって、ズルい!」
キンキンと甲高い声に振り向くと、昨日のあの、小柄な女が真後ろにいて、ギョッとした。
やっぱ階段は鬼門だ。
「お姉ちゃん、しーっ」
あまりの騒々しさに、姐さんが口元に人差し指を当ててたしなめると、女は逆ギレして更に「うるさい!」と叫んだ。
うるせーのはお前だっつの。
「私には15分もくれないのに! ズルい!」
キンキン声が、階段に響く。
「しつこく付きまとうからでしょ」
呆れたように言う姐さんに、「だな」とうなずく。どう考えても、小柄な女の方に正統性があるとは思えねぇ。
けど、もうそんな冷静な分析は、できなくなってるみてーだ。
「七瀬君だって、迷惑してるのよ」
諭すように姐さんが言う。それを聞いて、女は――。
「うるさい!」
一声叫んで、目の前の姐さんを突き飛ばした。
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