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春日が貸してくれたのは、野球のユニフォームの下に着る、黒アンダーとジャージの上下だった。オレよりもワンサイズ下なのか、若干キツメだったけど、十分着れるし有難い。
「あれ、お前、野球部?」
意外に思って訊くと、「そうだよ?」ってキョトンとしてた。色白だし、そういうイメージねぇからビックリした。オレも高校まで野球部だったって打ち明けると、「うおお、スゴイ」って感動された。
ささやかな共通点だけど、ちょっと嬉しい。
大学では野球をやんなかったけど、野球部に入っときゃよかったって後悔した。そしたらきっと、もっと早くに出会えたのに。
「キミの服、洗ってるから」
はにかむように言われて、素直に礼を口にする。
熱いシャワーにも助かった。どん底まで落ち込みかけてた気分が、春日のお陰で浮上した。
狭いワンルームの真ん中には、こたつがどーんと鎮座してた。
その上には、コンビニのチョコケーキとコーヒーが2つ。「どうぞー」と招き入れられて、遠慮なくこたつに足を伸ばす。
数年ぶりに味わったこたつは、なんかすげー温かくて、ヤベェくらい和んだ。
「うわっいーな、こたつ」
しみじみ言うと、「うん」って神妙な顔でうなずかれた。
「こたつは、人をダメにするね」
って。そんな言い方がおかしくて笑えた。
ケーキとコーヒーも勧められ、「さんきゅな」ってありがたく頂く。
コンビニのチョコケーキはコンビニなりの味だったけど、甘いもん食うとホッとする。コーヒーだってインスタントだったけど、春日が煎れてくれたと思うと、そんだけでも美味かった。
ケーキの後は、フルーツワインで乾杯した。
これもコンビニに売ってるらしいワインは、ビールよりも濃くて甘い。春日はこういうのが好みなんだろうか?
「あ、影野君の好きなビールもあるよー」
そう言って、いそいそと冷蔵庫から出してくれたのは、ホントにオレがいつもよく買う銘柄で、覚えててくれたのかと思うと胸の奥が熱くなった。
「誘ってくれて、あんがとな。スゲー美味いし、スゲー嬉しい」
思わず礼を言うと、春日はぶんぶんと首を振った。
「そんな。オレこそ、急に誘ってごめん。来てくれてありがとう」
「ははっ、確かに急だったな」
笑って肯定しながら、春日の顔をじっと見る。
考えて見りゃ、クリスマスイブに男同士で過ごすってのも、大概寂しいよな。春日はそれでよかったんだろうか? 他に一緒に過ごす相手はいねーのか?
にこにこと機嫌良さそうにしてっけど。もしかして、恋人が来られなくて急きょ代わりに……って感じだったんかな?
「なあ、ホントは誰か別のヤツと過ごす予定だったんじゃねぇ?」
探るように訊くと、春日は「えっ?」とデカい目を見開いて、またぶんぶんと首を横に振った。
「別なんてない。誘いたかったのは、影野君だけだよっ」
キッパリと言ってから、じわーっと赤くなる春日。
そんな表情、バイト中には見た事なくて、当たり前だけどリラックスしてんのが分かる。
なんでオレを、と思わねーでもねぇけど、もしかすると同じ気持ちなのかなって、期待して心臓がドキドキする。
「春日……」
この湧き上がる気持ちをどう表現すりゃいいか分かんなくて、オレは春日をじっと見つめ、名前を呼んだ。
春日はオレの顔を見て、それから迷うように視線をさまよわせた。
「あのっ、オレ……プレゼントあるんだ」
そんな言葉に、ドキッとする。
クリスマスプレゼントなんか貰ったの、ガキの頃以来だ。
「オレに?」
「ちょっと待ってね」
そう言って、パッと立ち上がる春日。部活用なのか、エナメルバッグをこたつの方に持って来て、中をごそごそ漁ってる。
何かと思ったら、中に入ってたのは大量のコピー用紙だった。
「何だ、これ?」
不思議に思って1枚めくると、それはノートのコピーらしくて……。
――マクロ経済――
ノートのタイトル欄にそんな文字を見付けて、ビックリした。
「もう誰かから貰ってるかも、とは思ったんだけど。野球部の同期に頼んで、ノート、コピーさせて貰った。影野君、経済学部、だよね?」
「……ああ」
確かに経済学部だったけど、なんでコイツに知られてんのかは分かんなかった。ビール買うたびに見せてた学生証、あれに学部まで書いてたっけ?
つーか、それよりノートのコピーって?
野球部の同期?
呆然としながら、マクロ経済についてのノートのコピーをぱらっとめくる。
あんまキレイな字じゃなかったけど、ここんとこ授業にろくに出らんなかったし、正直有難ぇ。
レポートとかの提出物の、課題についても書いてある。試験範囲も。
「迷惑じゃなかったら、貰って」
謙遜したように言われ、慌てて首を振る。迷惑なんてこと、ある訳ねぇ。
「多分、ほとんどの科目の分あると思うんだけど。無いのあったら、また言ってくれたら……」
「いや……」
言葉に詰まる。なんだ、これ?
何て礼を言やいいのか、分かんねぇ。どんな顔すりゃいいのかも分かんねぇ。
思いがけねぇプレゼントに、頭ん中が真っ白になった。
「なんで、こんな……?」
呆然と訊くと、春日は赤かった顔を更に赤くして、にへっと笑った。
「好きだから」
こそりと呟かれた言葉に、胸がズドンと打ち抜かれる。
この、居ても立ってもいらんねぇ気持ち、どう反応を返せばいいのか分かんねぇ。
「オレだって好きだ」
叫びてぇ気持ちを抑えつけ、春日をまっすぐ見つめて告げる。
「……そうか」
幸せそうな笑顔を見せられて、はにかまれて、全身が震えた。
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