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逃走にしおりをはさみました!
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逃走
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その日は3日間の勉強会で疲れてしまい、そのままリビングで寝てしまった。
次の日の朝、台所から聞こえるフライパンを動かす音とジュー…と何かを焼いている音、そこから香るいい匂いでぼんやりと目を覚ました。身体にはタオルケットが掛けられていた。時計を確認すると朝の6:00。
『母さんおはよ、タオルケットありがと』
『あ、海翔起きたのね。タオルケットは葵が掛けてくれたのよ、後でお礼言っといてね』
どうやらこのタオルケットは葵が掛けてくれた様だ。
普段、冷静な葵は長男や次男の様に騒がないタイプだが周りの事をよく見ている。観察している、と言ってもいいだろう。
何を感じ、何をしようとしているのか、そういう事を瞬時に考え理解する事が出来るのだ。
つまり周りの事によく気づく、という感じだ。
今日からまた学校が始まる。それに来月はテストだ。夏休みに遊べるか、学校で補習かを決める大事なテスト。
影宮くんに勉強を教えてもらって一応理解したとはいえ、これからの数学の授業でついていけなかったら意味がない。
『海翔ー、何ぼんやりしてるのー?これからみんな起きてくるんだから、ご飯の支度手伝って』
母さんの声でハッと意志が戻った。
『あ、うん』
俺は母さんに言われるがまま朝飯の支度を手伝った後、学校へと向かった。
時刻は8:00。
朝日に照らされた河原は光を反射し、キラキラと光を放っている。
……カシャッ…
『本当…すっげー綺麗……。』
俺は思わずその風景を携帯のカメラのフォルダに収めた。
いつもと変わらない道。変わらない風景。そんな変わらない、いつもの通学路にある変化が。
歩いていると前方からクリーム色の様な塊が、凄いスピードでこちらへと向かって来ている。目を細め、その塊を見つめた。
((えぇ゛ッ、なになになに?!))
『おーーーーい!そこの高校生!!!その犬捕まえてくれ!!!』
その塊は近づくにつれて、だんだんと姿がハッキリしてきた。
どうやら、それはゴールデンレトリバー。綺麗な毛並みを上下に揺らしながらこちらに向かって来る。
ゴールデンレトリバーの50m程後方からはスウェット姿の男性がリードを片手に、はぁはぁと息を切らせて走っている。おそらく先程の声の主だ。それにこの犬の飼い主であろう。
『え゛ッ、ちょッ…!どゆこと?!…お前!止まれ止まれッ、』
肩に下げていたバッグを放り投げ俺は必死になって、その犬の前に立ち塞がり両手を広げた。
『ワンワンッ!!!!』
犬は俺の胸に飛び込み、俺を押し倒す。
『ッ!!痛ぇ……ちょっ、止めろってー』
ゴールデンレトリバーが、こんなに重いとは思っていなかった……。俺の上に乗っかったそいつは俺が、どかそうとしても動かなかった。
起き上がれないうえに顔中を舐められるから呼吸が出来ない。
『プッハッ!!』
顔を逸らして呼吸をするがすぐに口元を舐められ塞がれた。
『君ッ、大丈夫かい?! おい!エース、ストップ!シット!』
その男性がやっと追いつき膝に手を置いて息を整えながら、その犬に声を掛けた。犬の名前は《エース》と言うのだろうか、
エースは男性の声に反応し男性の前に座った。
『すッ、すいません!ありがとう!
いやーー。最近寝不足でボーとして、こいつの散歩してたらいつの間にか首輪からリードが外れてしまった様でね……助かったよ…。怪我とかしてない?大丈夫?』
頭をかき、苦笑いをしながら倒れ込んでいた俺の前に手を伸ばした。その手を掴み、起してもらう。
『あ、すいません。ありがとうございます。…あ、俺は大丈夫っス』
俺はパンパンと制服に着いた砂ぼこりを払いながら立ち上がりエースと呼ばれていた犬の頭を撫でた。
『そうか、良かったよ』
そう言って微笑んだ男性を改めて近くで見る。
身長は180cmくらい…年齢は30代という所だろうか?
顔は整っており、《カッコイイ大人》とか《優しそう》とか、そんな感じの言葉が似合う感じ。結構若く見える。
『この朝日が当たる河原が綺麗で横を見ながらコイツの散歩をしていたんだが、気づいたらリードが外れて走り出していてね…それにこんなに走るとは思っていなくて…
いやー、失敗失敗…』
((なるほど…。
微笑んだ時の目元が誰かに似ている……誰だっけ…………?))
『あの……俺とあなたってどこかで会った事とか…無いですよね?』
『………?』
『あッ………すいません、突然。』
『いやいや、大丈夫だよ。会った事はないと思うけど?私が君に会うのは今日が初めてだし、最近この街に戻って来たから』
『そうですか…、ん?戻って来たって事は以前ここに住んでいたんですか?』
『ああ。もう数十年か。もっとか、そのくらいななるかな。仕事の都合で引っ越して来たんだ。』
『そーなんですか……』
『それより…時間は大丈夫なのかな?』
その言葉にハッとして携帯の画面上に表示されている時間を見ると8:30。
『やっべ!!あと10分しかねぇ!!あ゛、時間ヤバいんで失礼します!!』
『ああ!気をつけて!』
30分も時間を潰すとは思ってなかったッ!
ヤバい。走っても間に合わないぞ、これ…遅刻だ……、
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