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五十八にしおりをはさみました!
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五十八
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身体の下でもがくコウを抑え込む。
【パン、パン】
銃声、怒鳴り声、複数の足が地面を蹴る音。
自分の耳元に心臓が移ってきたかのようにドクドクと脈打つ音が頭の中に鳴り響く。
「ヨシキ!!」
「コウ!動くな!」
『月光様!』
閃が叫びながら走ってくる音。
身体の力がふいに抜けて、もがいていたコウにあっさり身体を返される。
「ヨシキ!」
「ヨシキサマ!」
『不要放掉!』
コウ、それくらいは俺にもわかるよ、逃がすな!って刑事ドラマみたいじゃないか。身体をねじ切るような激痛が容赦なく俺を攻撃してくる。
コウが乗るはずだった車の脇まで引きずられた。
この浴衣気に入ってたのにな、土だらけじゃ着られない。頭の中がもわっとして委ねたくなる。
なんだ俺…もしかして死にそうなのか?
コウはネクタイを首から抜き取り俺の太ももをきつく縛った。足・・・弾が当たってしまった。
自分の足を見ると向う脛の中ほどから足がありえない角度に曲がっている。それを見た瞬間意識が遠のいた。
「ヨシキ!聞こえるか!」
必死だな・・・・コウ。
俺の足、やばいだろ・・・これ。
「ヨシキ!聞こえるのかと聞いている!」
走り寄る足音が聞こえてきた。地面に頭がついているせいか随分と響く・・・そんなどうでもいいことを真剣に思うぐらい、俺の脳みそは混乱しているのかもしれない。
『确保了』
この声はシロさんだ・・・撃った男・・・運転手を捕まえたってことか。これ以上撃たれることもない。
一安心だ。
「ヨシキ!」
「聞こえてる・・よ。」
「医者に連れて行く!大丈夫だ!私を一人にする事など許さないからな!」
こんな時まで俺様だな・・・。
「傍にいるからな。ずっと付いているから許さないぞ・・・許すものか!離してたまるか!」
意味は通じるけど・・・滅茶苦茶じゃないか・・・。
駄目だ、違う、コウ、それはダメだ。
「コウ、お前は行け。」
「何を言っているのだ?わからないぞ!」
「仕事に行け!」
「馬鹿か!こんなお前を放りだせというのか!」
完全に頭に血が昇っているし、いつものコウではない。月光様でも皓月でもなくなった一人の狼狽えた男が叫んでいる。
不本意だが仕方がない・・・。
俺は力をふりしぼって、コウの横っ面を叩いた。
閃とシロさんが息をのむ「ひっ」という音が聞こえた。やけに耳が敏感だ・・・。いや違う、そうじゃなくて、コウに言わなくちゃいけない。ちゃんと・・・言わなくちゃ。
「コウ!お前は時期大龍じゃない、大龍だ。イロの足一本ぐらいで狼狽えるな。そんなものくれてやる。
いいか、よく聞けよ?
ここで俺に貼りついていてもいいことはない、力を・・・見せつけなくちゃいけない。」
「ヨシキ!喋るな、今運ぶから!」
くそ、集中力が続かない。遠のいていく意識を必死で握りしめる。
まだここで気を失うわけにはいかない。
「誰だ・・・誰が?」
「誰がなんだというのだ!どうでもいい!」
「よくはない!洋服屋をキャンセルさせたのは誰だ?」
コウの動きがピタと止まった。目の奥で頭が回転しはじめる表情を見て、ようやく言いたいことが伝わったと安堵が湧き上がってきた。
「キャンセルの後に面会をねじ込んできたのは誰だ?」
ギリと奥歯を噛みしめたコウは何事か早口でシロさんに言ったが、今の俺はそれを理解しようとする意欲がない。ちゃんと言わなくちゃ・・・ちゃんと。
「俺にかまけるな・・・そいつらを黙らせろ。そうしないとコウが大龍である姿を誰もが疑うことになる。
俺の足なんか安いものだ。
わかったか?力を・・・みせつけろ!その機会を逃すな。」
コウの手が頬に添えられた。俺の視線の意味を理解したコウの唇がおりてくる。
「行ってこい。俺はなんとかなる、閃がいれば大丈夫だよ。お前はシロさんと行け。
皓月の名を轟かせろ。俺が惚れた男はそういう男だ。」
コウの身体から鋭利な刃物が放射状に飛び出したかのような空気が迸る。
触れたら血みどろになりそうなほどに凶悪で美しい冷酷さ。
そうだ・・・それでいい。
それこそが大龍であるべき男の姿だ。俺を抱えてオロオロしている場合じゃない。
力いっぱい抱きしめられて息がつまると同時に、コウの香りが雪崩れ込んできた。
シャープで華やかな香り・・・。
「お前の腕の中にいる限り、俺は死なない…そう言っただろ?」
「ああ・・・言った。」
「ハンカチ・・・くれよ。」
「ハンカチ?」
「コウの香りがするから。それと一緒にいれば・・・だいじょ・・・ぶ。」
ポケットからとりだされたハンカチが俺の右手に押し付けられた。
「行ってくる。」
「いって・・・らっ・・・しゃい。」
言いたいことを言えた・・・そのとたんに踏ん張っていた意識が崩れ去る。
俺はそれ以上目を目を開けていることができなかった。
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