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ギターを弾く男の話2
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「これは何の騒ぎかねえ。」
男がクラブのステージで弾き語りをはじめたころ、店の奥から、フーテンのなりをした男がやってきた。クラブのオーナーである。
「あ、佐々木さん。こんばんは。」
「おい、俺のことはジョージかオーナーって呼べよ。しかし、お前ら本当に喧嘩が多いなあ。あいつ、クスリやってたのか。」
「ああ、酷いんだよ。ジョージさん、今度からあいつには売人をよこさないようにしてくれよ。」
「わかったよ。しかし、何であの腰抜けボーイがクスリなんてやるかねえ。」
「あいつは弱いんだよ。だからクスリをやって、売れない自分をかばってる。」
佐々木はそれを聞いてヒュウと口笛を吹いた。それは若干の揶揄を込めたものでもあったし、尊敬とか感心の念を込めたものでもあった。
「加藤よ、お前、あいつのどこがいいんだ。」
「そうですね。…………うーん。」
加藤はその後5分ほど考えつづけた様子であったが、とうとう佐々木に明確な回答を与えることはなかった。佐々木はまた口笛を吹いた。今度は呆れたなあとかダサいなあとかそういう思いを込めたものであったが、加藤はそれには気づかなかった。
「あいつは弱くて、割れそうなんですよ。反抗心とか反骨精神があるんだけど、何に反対すればいいのかわからない。そういう、すぐに割れそうなとこ見るとどうにかしてやりたくなるんです。」
「でもさ、お前、あいつのことをどうにかしてやりたいんなら、音楽をやめさせるのが一番だと思うよ。」
佐々木はそう言いながらマッチを擦って煙草に火をつけた。
加藤は何も言わなかったが、キリリとした眉をピクリと動かして、チラリと佐々木を見た。たしかに男に才能はないし、ちゃんとした仕事についたほうが収入も安定してくるだろう。それは誰が見ても明らかなことだが、加藤はどうにも躊躇していた。
「それが本当の愛ってやつだろうぜ。クスリは今の音楽業界じゃあ普遍的なまでになってるらしいしな。」
「そうなんですけどねえ。俺もあいつも、今が楽しけりゃそれでいいっていうか。今、俺はあいつの弱い心からクスリを取り上げた。だからそれで満足。みたいな。」
「それで肝心なところには目を瞑るってのか。」
加藤はまた押し黙る。
佐々木は煙草の煙を吐き出しながらため息をついた。
---やれやれ、青臭い奴らだぜ。オイラの場合、ちゃっちゃと音楽なんざやめさせて終わりにするだろうにさ。もしくはとっくに別れてるかねえ。青臭いといえば、最近青魚を食ってねえな。久しぶりに食うかな。
そんなことを考えながらしばらく男がギターを弾いているのを眺めた。
「そういや、お前、昇進したんだって?」
「はい。俺は要領がいいんで、同期の奴らよりも早く仕事を覚えるんですよ。」
「そうかいそうかい、そりゃいいや。」
加藤は酒を一杯頼んで、ステージを見つめた。視線の先の男は何やら珍しくオリジナル・ソングの弾き語りをしている。
「佐々木さん、俺、どうしたらいいんですかね。」
「ん?」
「あいつ、多分また一週間したらクスリを始めると思うんですよ。俺、そんときにはどうしたらいいんですかね。」
加藤は酒をチビチビと飲んでいた。ステージに向けていた視線はいつの間にか彼のつま先に向かっていて、佐々木はうーんと唸った。
「それは俺が決めることじゃねえよ。それに、お前らは今がよければそれでいいんだろ?そういうことにしときゃいい。」
「それは、そうですけど。」
「それとも何、お前、あいつと別れて独り身のホモだって馬鹿にされるのが怖いのか。」
佐々木は二本目の煙草に火をつけながら言った。加藤はバッと彼のほうを見たが何も言わない。どうやら図星なのだろう。
「ま、それも仕方ないと思うぜ。ホモだなんだと迫害されねえのはどうやったってお前らが仲良く明るくしてるムードメーカーだからだろう。今更お前が他のコミュニティに受け入れられるかと言われたら微妙だものなあ。」
「貴方は本当に性格が悪い。」
加藤は酒を一気に飲み干すと、髪の毛をスッとかきあげた。一連の動作が男らしくて色気があって、佐々木はまたしてもヒュウと口笛を吹いた。今度は賞賛の意味を込めた。
「大人になれば、誰しも保身に走りたくなるものだぜ。」
「そうですね。」
加藤はため息まじりに笑ってステージを見た。佐々木もステージを見たが、男の演奏がどうにも見ていられないレベルだったので何気ない風を装って目線を外した。
---やれやれ、つくづく気の毒な奴らだ。
佐々木は苦笑いをして加藤の肘をつつき、頑張れよとだけ言って立ち去った。
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