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「————御機嫌よう。凱史さん、夜見さん」
「どうも。先日の会食以来ですね」
「…」
「あらあら、夜見さんは少しご機嫌斜めでいらっしゃるの?」
ご機嫌斜めというよりは、僕と会話しているお前が気に入らないんだろうけど。
「すいません。昨日少し夜更かしをしてしまいまして。ほら、月が綺麗に出ていたでしょう?眺めていたら夜が更けてしまったんです。お気を悪くされないでくださいね」
実際は汗と我慢汁で布団を一組駄目にして、結局一睡もしてないけど。
「良いんですよ。それにしても風情があって素敵ですね。今度是非ご一緒させて頂きたいわ。その時は、時間なんて気にせずにいつまでもゆるりと過ごすんです」
「ええ、その時が来れば是非」
お相手しますよ。その時が、来ればね。
「夜見さんは如何です?」
「…」
「夜見。お返事を返して。女性に恥をかかせるものではないよ」
くんっ、と夜見が着ていた着物の裾を引いて、死角にある手に握っていた端末を見せる。
「…んぅ、えと、僕も、是非、ご一緒したい、です」
指を指した単語を目で追いながら発せられた言葉に、目の前の西園寺だか陰陽師だかの小娘は、喜色満面の笑みを見せた。
「本当ですか!それは嬉しいわ。なら早速日取りを決めましょう。ふふ、思い立ったが吉日というでしょう?私この言葉大好きなんですの」
嘘を付け。この前会った時夜見に僕がそう言わせたからだろうが。
「んと、えと、そうですね。いいですね。でも。それは。一度。置いて、おきましょう」
「あら、それはまた…いえ、そうですね。やだ、私ったらみっともない所をお見せして。
あまりに嬉しいお申し出でしたから少し舞い上がってしまいました」
「とんでもない。喜んで頂けてこちらこそ恐縮です。
…さて、不躾かとは思いますが、この辺で一つ本題に入っても?」
「本題ですか…ええ、構いません」
どういう神経をしていたら、こんな不遜な態度が取れるのだろうか。
むしろそっちが本題にふさわしい気がしてきた。
「夜見」
「ん?」
もう少し、我慢してね。
視線だけでそう言うと、少しはにかんで直ぐに僕の手元に視線を下げた。
「ん」
うん。良い子。
「…夜見に、用件があるとお聞きしています」
「ええ…あの、差し支えなければ凱史さんは車の外でお待ち頂いても宜しいですか?」
「それは出来ません」
「考える素振りすらお見せにならないんですね。失礼じゃございませんこと?」
失礼とかはこの際もうどうでもいいや。
それより何なんだろうこの話し方。親譲り?それとも夜見に好かれようとしてる?
…あり得るな。前回の時夜見がふざけて時代劇みたいな口調で話してたし。
「礼を欠いているのは承知の上です。
しかしながら、僕が外へ出て顔を晒すのはお互いにとって利口な判断ではありません。
僕自身もそうですが、夜見にも。そして貴女にも立場、或いは清濁兼ねた影響力というものがあります。どうかご理解ください」
「ならば最初から腰を据えてお話ができる場所をご都合頂ければ宜しかったのではありませんか?移動する車中を指定されたのはそちらですよ?」
「それも先ほどの話にまた然り。
貴女からのお申し出の内容からして、あまり他人に訊かれては宜しくないかと」
「そちらの方々はそんなに無能なんですか?人払いも碌にできない程に」
「お言葉ですがそれは違います。
…少し話しは変わりますが、最近の電子機器の事情についてご存知ですか?」
冥途の土産に、もう少しだけ付きあう事にした。
…なんて、嘘。段々と夜見が焦れ始めて来てるから、苛めてあげたいだけ。
「電子機器?さぁ、私そういう類はあまり…何の話ですの?」
「カメラとマイクの話です。最新の物だと正に豆粒。壁に埋め込まれたら素人にはまず見つけようが有りません。しかし仮にも電気製品ですから、一般的にはコンセントや電池付近など電源が取れるところに設置するのがセオリーなので、その付近を探せば大抵は出てくる。
但し、それはあくまでも長期的に設置をする際の話。
一日二日設置をするだけなら小型のバッテリーと共に設置すれば、それこそどこにでも設置可能です。しかも物によっては金属探知機にもかからない。
専門家でも見つけられないことが有るそうですからね」
「…例え人払いが出来ても、仕掛けられたら手の打ちようが無い。と?いいえ、それは違いますわ。なら前日までにその施設へと部下を出向かせ、探させれば…」
「ですから申し上げましたよね?専門家でも見つけられない事が有ると」
「部外者の出入りを禁じられたら宜しいんじゃ無くて?」
「つまりその建物の全管理をうちの者だけでやれと。
不可能ではありませんが、効率が悪すぎます。
常駐させるだけならまだしも、管理となると清掃や空調機器等の管理も含みますからね」
「であれば常駐させれば良いじゃございませんか」
「意味がありません。所詮人ですから、死角も無数に出来上がります。
それならばカメラ等に頼った方が幾らか利口です」
「結局は無能という事でしょう?」
少し上気した顔で勝ち誇ったように言うこいつは、多分性格だけじゃ無くて頭まで悪いんだろうな。お気の毒に、救いようが無い。
「そう仰るのでしたら。そうなのでしょうね。
貴女の所の方々は実に優秀な様だ。羨ましい事この上無い。
まさか二十四時間三百六十五日三百六十度を見続けられて、その上透視能力まで兼ね備えた方々がいらっしゃるとは。うちに欲しいくらいです」
「…はい?」
「何か?」
「どういう意味ですの?」
「何がですか?」
「ですから、今、凱史さんが仰った言葉です。二十四時間云々と仰ったでしょう?」
「ええ。言いましたよ。羨ましいとも」
「いや、あのつまり…何が仰りたいんですか?」
「優秀ですね。と。
僕の話、聞いていましたか?
何故機械の方が優秀か、それは一つに死角が少ない事です。
置き方さえ工夫すればほとんど無くす事も可能ですし、他の機器と組み合わせれば四次元的にも隙を塞いでいくことが出来ます。
そして二つ目は人間と機械の決定的な違い。持続性、とでも言いましょうか。
メンテナンスさえ怠らなければ機械は常に同じパフォーマンスで、求めるだけ働いてくれます。一日の内に何度も集中力を欠き、ともすれば意識を失う人間に同じ真似は到底できない…と、僕はそう思っていましたので。
そんなスーパーマンみたいな人間がいらっしゃるのか、と、感心したまでです。
おや、どうされました?顔色が悪い様ですが、具体的には赤くなってらっしゃいますよ?」
夜見の手が僕の手を掴んで、するすると太ももを撫でさせる。
こら、まだ我慢だよ。
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