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悪魔の出生
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——Side半蔵
「りょ、料理長、ぁの」
「んー?どしたの?」
両手で胸を押さえて、胃のむかつきを堪えながら言葉を紡いだ。
「あれって、大丈夫なんですか?」
脳裏に、数分前の光景がフラッシュバックする。
料理長に頼まれて地下の特別室にお二人の夕餉を持っていくと、明らかにそう言う行為の最中で、呼吸することと人殺しを同列に考えて良そうな代表が、タイルの上に押さえつけられて、妙に大きく開いた口の中に唾液を注がれていた。
「あー…あれね」
なにより気にかかるのは、そんな行為を丸二日程ぶっ続けでしている事。
計六回食事を持って行っているが、一度たりとも減っていなかった。
「大丈夫だよ…なーに、心配?」
「し、心配って言うか…その」「異常?」
言いあぐねていた言葉を当てられ、動揺すると同時に罪悪感が浮かんだ。
口を噤んだ俺を見て、料理長が溜息を吐く。
「ぁっ、あの俺は別に…」
「別にチクったりしないよ。それに言った所で気にしないだろうしね」
どこか諦めを滲ませた表情で料理長は言い、更に続ける。
「半蔵は…確かスカウトだっけ?うちに来た経緯って」
「スカウト…そう、なるんですかね」
道端で倒れていた所を連れてこられたのが、確か半年前だったと思う。
不自由のない生活、程々に親しい友人、型にはまった人生設計。
ある時突然、すべてを捨ててみたくなった。
自暴自棄になった。と、当時は誰もが思った、俺も含めて。
だけど今になって分かった。俺は…怖かったんだ。
捨ててみたくなったその全てが、俺は怖くなっただけ。
不自由のない生活。程々に親しい友人。型にはまった人生設計。
何一つ、俺の物では無い気がしたから。
人生を、取り返したかった。
「そっか…なら知らないよね」
「何をですか?」
「凱史と、夜見ちゃんの出生」
代表と夜見様の事をそう呼べるのは…いや、呼ばないだけかもしれない、あの人達が呼び方一つを気にするとは思えない。…だからと言って呼んでみようとは思わないけど。
「普通に先代のご子息じゃないんですか?」
「全然ちがうね、大体うちは世襲制じゃないし」
「え?」
思わぬところで予想外の言葉をぶつけられ、反射的に聞き返した。
「ありゃ、それも知らないんだ…んー、そうだねぇ、あの二人について話すんなら避けれない話題なんだけど…できれば聞かなかった事にしてくれる?その内時効は来るからさ」
「まぁ…いいですけど」
「んじゃまずはね、うちって、何だと思う?」
あまりに漠然とした質問に一瞬言葉を失い、出来る限りの丁寧な言葉を持って表現した。
「ぼ、暴力団…ですよね?」
「当たらずとも遠からず」
「当たらずとも?」
「うん。正確な呼び名は多分無いけど、強いて言うなら暴力団もどき」
「暴力団、もどき」
「あ、それあんまり組員の前で言わないでね、反感買うから。
んで、何でそう呼ばれてるか何だけど、朝霧グループって知ってる?」
「あさぎり…いや、すいません。あんまりそう言うの知らなくて」
「じゃあ霧島製菓は?」
「あ、それは流石に知ってます」
「明星スポーツ、大夢食品、アパレル落花、フィンド朝日、は?」
「フィンド朝日以外は。全部国内大手の企業ですよね?」
「キッドクリーク、パルシィオ、ロデアック、メタファード、デ・マルセ、ピスタルク、ブィフフォンス、ラッキ、ダンアンテ、は」
「まぁ、いくつかは…えと、それがどうしたんです?」
全て世界大手の企業だった気がする、ホテルとか、実は何の会社かもよくわからない会社も含まれていたけど。
「全部朝霧グループの傘下の会社だよ」
「…は?」
突然出現した『朝霧グループ』に、なぞかけでもされているかのような気分に陥る。
「え…っと、どういう事ですか?」
「言った通り。半蔵が、理解した通り」
と言う事は、朝霧グループは、え?
「何、ですか、その規模。そんな規模の会社とか聞いた事無いですよ!?」
「厳密には会社じゃ無いけど、まぁ詳しい説明は端折るね。
そんでその途方もなく大きなグループ…コンツェルンって言った方が良いかもね。
そのトップの息子が、夜見ちゃん」
「え、は?ちょ、は?」
最早情報の大きさが、許容範囲を遥かに超えている。
丁寧な言い回しで問いかける余裕など、有る訳が無かった。
「ま、息子って言っても何百人もいるうちの一人だけどね…ありゃりゃ、もうギブ?」
頭の中をぐるぐると情報が錯綜して、言われていなことまで妄想してしまう。
料理長の言葉でそんな自分に気付き、一旦考えるのを止めた。
「いや…大丈夫です。続けてください」
「じゃあ続けるけど、凱史はその夜見ちゃんの息子。もうね、年齢の概念とか忘れた方が良いよ。あの二人は理屈の外側に居るから」
「…そう、します」
「やっぱり素直だねー。実際長く生きてるのは夜見ちゃんだけど、寝てた年数が長いからそれを無しとすると、凱史の方が長く生きてるって事にはなる。一応補足説明ね」
「いやあの、もう何かよくわかんないです」
「あ、そう?じゃああの二人についてはこのくらいで」「あ、ま、待ってくださいっ。その朝霧グループとうちの関係っていうのは何なんですか?」
「あー、忘れてた。簡単だよ、うちも朝霧グループの一端って事。傘下とも言う。
よくあるでしょ?政治家と暴力団の癒着みたいなの。うちはそれを身内の人間でやっちまおうって立ち上げられた組織な訳。
だから厳密にはうちは暴力団じゃないし、でもそれはそんなに重要じゃないし。
いわばグレーゾーン。だけど、明確に違う所が一つ」
混乱した頭でも、線を辿る様に一つの答えが見えた。
「うちは独立した組織じゃない、って事ですか?」
「おー、せーかーい。だからその辺のちっこい組合は手を出す時点で自殺行為なわけ、精々関東一とか、関西一とか、そのくらいの規模が無い限りはね…ここまではおーけー?」
「全然オーケーじゃないけど、もう進めてください」
「ん。でね、何でそんな危ない組織のトップをあの二人が務めてるのかが出生の話とも被るんだけどさ、凱史は昔人体実験の、まぁその…材料、だったんだよね」
料理長の表情が陰り、あまり聞いたことが無いような覇気の無い声でそう続けた。
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