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Encounter_15
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「うし、美味しいの作るからなー」
大袈裟に腕捲りをして見せると、雪はキッチンへ向かう俺にひょこひょこと足を引き摺って着いてくる。
俺が一応気まずいながらも雪の寝てる間に捻挫は処置したが、まだ足を着くと痛いらしい。
座ってな、とは言ったものの、雪は俺のシャツの裾を掴んだままふるふると首を振った。
あんな事した俺を怒ってないらしくて、それは安心する。が、これじゃ包丁使いづらいな…
仕方無い、熱も大分下がったみたいだし。ちゃっちゃと作ってやろう。
鍋に入れるものを取り出して、まな板に載せる。
包丁を握ろうとすると、雪がふと、俺の手元を見つめてるのに気が付いた。
「どうした?」
「……これ…」
雪が指差すのは、俺の手元の少し大きめの切り傷――雪が最初暴れた時に引っ掻かれたものだ。
「これか、もう瘡蓋になりかけだし。気にすんな」
そう言っても、雪は申し訳なさそうに眉を顰める。
それから、徐にその傷付いた俺の手をそっと手に取った。
何をするのか、と思えば。
「……!」
雪は赤めの舌をちろ、と覗かせて、俺の傷をぺろりと舐めあげた。
驚いて、声が出ない。
雪はそのまま二三度舌を行き来させると、そっと口を離した。
すると――なんと、手についていた傷が、みるみるうちに塞がっていく。5分ほど経つと、傷痕は跡形もなく消えてしまった。
ぽかんとして、雪を見る。これも、獣人だからこその治癒能力なのか…?
雪は驚いたままの俺を見て、しゅんと耳を寝かせてしまった。それから、俯いて口を開く。
「あ、の、その、ごめんなさ――」
「いやすげーよ雪!でもごめんな、不味かっただろ?」
俺は純粋に感心してしまって、わしゃわしゃと雪の頭を撫でてやる。何度もありがとうと伝えると、俺よりぽかんと驚いた様な顔をしていた雪はまた俯いてしまった。
どうやら俺の反応に困惑しているように見える。こんな特殊な力、確かに驚きはしたが…
「でも、こんな不味いの舐めなくていーからな?
今度から絆創膏貼るようにするわ。心配してくれてありがとな」
最後にそれだけ伝えると、雪はこく、と一つだけ頷く。
とりあえず、まずは白菜を洗おうと蛇口を捻った。雪のお陰で水も染みなくて楽だ。
それからもやし、水菜、それから鶏肉を取り出して――切った材料を雪に盛り付けてもらいながら、雪に色々と気になっていたことを聞いてみた。
「なぁ…色々聞きたいこと有るんだけど、ちょっと聞いてみてもいいか?
答えたくなかったら答えたくないって言ってくれればいいからさ」
出来るだけ、優しく聞いてみる。
雪は少し表情を曇らせたが…こく、と小さく頷いてくれてほっとする。
施設の事、仕事上気になるからというのもあるが、ただ純粋に雪の事が心配で。自然とそんな質問をしてしまっていた。
「――じゃあ、雪は猫に変身したり、人間に変身したり、どっちも出来るんだな?」
「…はい」
「うん、なるほど……仕組みは分からんが……
でも最初に会った時は猫の姿だったのに、何で俺の家に来た時人の姿になったんだ?」
「えっと…いつもは人の姿で生活してて、でも最低限のエネルギーが無いと、人の姿を維持出来なくて。
外に居る時は本当に限界で……此処に来て、暖かくてホッとしちゃったんです。」
「なら良かった。俺の家で安心してくれたってことだろ?」
その言葉を聞いて雪に笑顔を向けると、雪はこくこくと必死に頷いてくれて。可愛くて、つい笑顔が零れる。
だが、こんなちっぽけな家でバスタオルに包んだくらいで安心してくれるとは…他の所が酷かったのだろう、想像もしたくない。
「それで、変身できるお陰で細胞の働きが活発で…だから傷も直ぐに治るし、唾にもその効力があるみたいです」
「へぇ、よく分からんが凄いな……」
脳筋の俺では生物の仕組み等はよく分からないが、そんな能力が有るのかと感心する。
しかしふとある事に気が付いて、気になって雪に尋ねてみる。
「あれ、でも……雪の身体の傷は……?」
最後に皿に具材を盛り付けていた雪の手が、ぴたりと止まる。聞いたらいけなかったか?と思っていれば、雪はまた何事も無かったのように手を動かしながら、ぼそりと呟いた。
「これは、…"お仕置き"なんです」
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