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赤い花
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口に手を当てながら歩く。不意に窓の外へ向けた視界にひらひらと散っていく桜が目に映った。
春に咲く花。春にしか咲かない花。俺は手で隠してた口をくっと釣り上げる。
桜を見ていればたった一人の兄弟を思い出す。笑ったり怒ったりと表情豊かな俺の兄。
思わず食べたくなるあの桜色の唇、無邪気さが滲み出るくりっとしたアーモンド型の瞳、ふわりと触り心地が良さそうな黒い髪、見てるだけで触りたくなる誘惑するような白い肌。手、足、腰、鮮明に思い浮かぶ"瀬戸伊織"という男。
強がってばかりのプライドだけは高層ビル並みに高い。その癖、どこか諦め半分の自暴自棄男。
くっ、と笑い声が漏れた。幸いにも今は授業中で廊下を堂々と歩いている奴なんて居ない。
桜を視界から外し、上履きを引きずるようにして歩く俺は扉の前で立ち止まった。保健室、そんな文字を確認してから引き戸に手をかけた。
先生は居ない。あらかじめ知ってたし、驚きはしない。
一つだけ閉まっているカーテンの所へ行き、静かにそれを開ける。
「イオ」
ほんのり赤く染まった頬、緩められた制服のYシャツにじんわりと浮かぶ汗、浅く息を繰り返す兄の姿。
辛そうにも婀娜やかなイオに心が揺さぶられる。
首筋の汗をペロリと舐めた後ぢゅ、と吸い付く。
少し顔を歪めたイオ。けど起きる様子もなく、もう一度それを繰り返した。
離した唇の下にはくっきりとついた赤い花。それに満足して、俺は額に張り付く前髪を払ってやる。
それから露になった額にキスを落としてイオの指に自分の指を絡めさせる。
「……イオ……伊織」
少し強く手を握れば、イオも手を握り返してきた。
その反射的な動作にまた口角が釣り上がった。
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