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傍観理論
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公園前でぐずぐず泣いてる瀬戸を見つけたのは兄貴の病院の帰りだった。
朝、階段から落ちた馬鹿兄貴が病院に行くって言うから付き添いで着いていった。
すぐ学校に向かえるように制服のまま。
結局、兄貴は捻挫という診断を受けて軽い処置を施された。
帰りは母さんに送ってもらうらしいから俺は学校に向かって歩いていた。
そこで瀬戸に会った。
声を掛ければ情けない声で俺の名前を呼んでボロボロ涙を流して大泣き。
まるでアイスを買って貰ったのに転んで地面に落としてしまった従兄弟のようだった。
どうすることも出来なくて公園のベンチに座らせ存分に泣かせた。
こういうときは泣いた方がいいって、ばあちゃんに聞いたような気がする。
そうしてやっと落ち着いた頃には何故か俺の兄貴の話になった。
それから質問を問い掛けられた。
「兄弟から好きって言われたらどうする」
そわそわ落ち着きのない様子から、ああ、と妙に納得した。
男女の場合で!なんて分かりやすい嘘をついて俺の返事を待つその姿は少し、いやだいぶ可愛いげのある乙女の顔をするもんだから俺は言ってやった。
「そんなの自分次第だろ」
ってな。瀬戸は呆れたようながっかりしたような表情を浮かべる。
だから俺は自分の思ってること全部言ってやったんだ。自分の感情を織り混ぜて。
そうして言い合いのようになったやり取りを終わらせたのは瀬戸だった。
「っ、幸せなわけねぇだろ!」
そう怒鳴った瀬戸は泣きそうで苦しそうでさっき達した推理は少し間違っていることに気づく。
「好き」で済ませられるほどそう簡単な話じゃないらしい。
けどな、瀬戸。
好きって何より大事な言葉なんだぞ?
聞こえのいい言葉を並べて瀬戸を励ましたら、震えた声でばっかじゃねぇのって言われた。
あまりにも瀬戸らしい返しに笑っていたら、不貞腐れた顔で睨まれた。
それから他愛もない話をして別れたら、今度は敵意剥き出しの男に出会った。
出会った、と言っても偶然ではなく必然だろうけど。
「……何話してたんですか」
びりびり伝わる威圧に冷や汗が垂れる。
後輩だとは思えないな。
「別になんだっていいだろ?」
「泣いてたでしょ」
見てたのかよ……瀬戸が何で悩んでるのかますます分からないくらいの溺愛っぷりだ。
冷めた目が俺を射ぬくから身動きが取れず逃げるという選択肢を選べない。
正直に話すのも、なんか嫌だ。
「本人に聞けばいいんじゃないか?」
「……喧嘩なら買いますけど」
「はは、それは勘弁してくれ」
勝機のない喧嘩はしない主義だ。
それに今なら確実に病院送りにされそうだ
切れ長の目がさらに鋭く、俺に向けられているのを見て苦笑いを浮かべる。
「じゃあもう一度聞きます。あいつと何話してたんですか」
「……答えられないな」
よりいっそう目が鋭く細められ、苛立っていることが直ぐに取って分かる。
「……まぁ、俺からは何も教えられないが一つだけ先輩から忠告しといてやろう。
素直になることだな、瀬戸に限らず」
顔をしかめるそいつを横目に俺は歩き出す
これ以上は学校に遅れるわけにはいかないからな。
「後悔した後じゃ遅いぞ、瀬戸弟」
すたすた足を進める中、通りすがりにぼそりと言葉を囁いた。
殴られないか心配だったが案外何もなく、俺はその場から脱出することに成功した。
あいつも瀬戸も居ない道路沿いの看板前で立ち止まり、ふう、と息をついた。
何が忠告だ。何がこれだけは覚えとけだ。
何一つとして出来ていない俺が偉そうによく言えたものだ。
ふと、今まで歩いてきた道を振り返ってみた。そこはなんの変哲もない道だ。
何だか無性に笑いたくなって、自嘲するように口角を上げた。
「勝ち目、ないな」
勝機のない喧嘩はしない主義だ。
だから俺は何もしない。
何もしないのも、結構苦しいんだな。
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