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遣い(シローside)
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起きるなり、屋敷の掃除に励んでいたところ、いきなりリンの遣いだという馬車がやってきた。
渡された手紙を読めば、すぐに来て欲しい旨が書かれている。
主が寝ている間に買い出しやら掃除をある程度、済ませておきたかった。
すぐに食べられる温かいものも作っておきたいし、雇い人との交渉だってある。
とても出向いている時間はないと告げたが、必ず連れて来るように言われていると、苦々しく立ち往生された。
雇い人にとって、主の命令は絶対だ。
逆の立場なら、自分も同じ行動を取るだろう。
深くため息をついて、真上にある薄曇の向こうに隠れた太陽を眺めた。
「夕刻までには帰らせてもらう。それでいいのなら、従おう」
「交渉は主としてくれ」
確かにと苦笑して、マントを着込むと、促されるままに馬車の後部座席に乗り込んだ。
深い森を馬車に揺られて、およそ20分ほど下ったろうか。
市街の外れに位置する丘の上に、スカーレット家の屋敷はあった。
思いのほか立派な佇まいだ。
高い城壁の向こうに手入れされた庭が広がり、荘厳な屋敷がコの字状に眼下の街並みを見下ろしている。
かつて仕えていた社交界でも名高いルミエール伯爵家の屋敷にも劣らない。
伯爵家の屋敷ともなれば立派なのが普通で、例外なのは我が主の方かと苦笑した。
いつか自分の力でローズウェル家を再興したいものだと未来を思い描くうちに、いよいよ門の前まで近づいた。
「入り口で降ろしてくれ。ここからは先は徒歩で行く」
いくら伯爵家の執事とはいえ、年若い使用人風情が馬車で乗りつけるには、いささか敷居が高過ぎた。
だが、馬主は無言で門をくぐり抜けると、屋敷の中央玄関に馬車を横づけさせた。
「客人として扱えとの、主の命だ」
こちらの行動を注視する様子から、主であるリンへの忠誠が透けて見えた。
言動に難は多々あれど、あれで下に愛されるよい主なのだと、わずかながらに見直した。
「手間を取らせて、悪かった」
礼を告げて馬車から降りると、執事と思しきブロンドの青年が立っていた。
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