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堕ちる 2 (リューside)
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形のよい尻の残像に、ため息をつく。
ジンの血を吸ったせいで、変に火照る身体が厭わしい。
猛りに触れた瞬間、思わずむしゃぶりつきそうになって、焦った。
気を鎮めるためにと、読むでもなく目を走らせていた本を投げ出して、天を仰ぐ。
ドクドクと血が騒いでしかたがない。
冷え切った身体に熱が通った分、制御のきかない熱が荒れ狂う。
血を吸った後は三日三晩、寝食も忘れて無我夢中で抱き合うのが常なのだから、もとよりあの程度の情交で足りるはずがないのだ。
中途半端に終わった分、飢えは狂おしいほどに膨れ上がり、次第に吐き出さなければ精神の均衡を保てないまでの苦しみに変わっていった。
『番を作れ』
闇に堕ちた頃、ジンがよく言っていた。
見つかるまでは、自分が代わりをしてやると。
『オマエがオレのツガイだろ……!?』
ふざけるなと抱き寄せれば、しかたなしに抱かせてくれはしたが、永遠を共にする半身には物足りないと、常に一線を画された。
ジンの自分に対する接し方は、昔から少しも変わらない。
命に代えてもかまわないほどの愛情を注いでもらった自覚はあるが、目が眩むほどの熱量からは程遠い。
愛情の方向性の違いは少しずつ心を疲れさせ、やがては巣から飛び立つ雛のように、別の相手と恋に落ちた。
そのたびに傷を負い、ボロボロになってはジンに笑われ、慰められ、もう誰かに夢中になるのは金輪際止めようと自分に誓うのだが。
毎回こりずに期待してしまう。
この相手こそ、自分の半身なのではないかと。
おまけに今度の相手は、ようやく独り立ちしたばかりのほんの子供だ。
ジンに夢中になった頃の自分のように、健気なほどの盲目な想いをぶつけられるたび、その想いもいずれ形を変えると憂う自分がいた。
「……どうしょうもねェな」
結局のところ、怖いのだ。
想いをつないだ果てに手を離されるのが……独りにされるのが。
その果てに傷つけ、失うのが。
……コンコン。
沈み切った意識に、ふいにノックの音が響いた。
食事の時間か。
正直なところ人間の食事など大した腹の足しにもならないが、食さなければその不自然さが目を引くと、ほとんど義務感で口にしていたが、シローが作る簡素な家庭料理は不思議なほど胸に染み入る温かな味がした。
「……入れ」
執事服をきっちりと着込み、今朝のことなどすっかり忘れたかのような涼やかな表情で、シローがトレイ片手に皿を机に並べ始めた。
準備を終えるとクロスを腕に下げ、静かにこちらを見守っている。
スプーンを手に取り、ひと匙すくって味わえば、魅入られたように止まらなくなる。
味付けは日々少しずつ違ったが、具材を煮込んだだけのやさしい味わいのスープと、釜で焼いた簡素なパンが定番だ。
過去に少食すぎると、無理に食べさせようとする執事がいて辟易したが、その点もシローは有能だった。
何も言わなくとも食べたい気分の時はスープをつぎ足し、腹が一杯の時は黙って食器を下げてくれる。
そんな些細な積み重ねに、日々どれほど癒されているかしれない。
とは言え、あまりにスマートに対応されたらされたで、すました顔を崩したくなるのだから、困ったものだ。
「オイ、……ンな離れたトコにいねェで、コッチに来いよ」
不意に鳴った自分ではない腹の音に、作りながら食えばいいものをと呆れながら、スプーンに控えめにスープをすくうと、憐れみ半分イタズラ心半分で差し出してみた。
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