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瞳の奥
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<55、瞳の奥>
狭いシングルサイズのベッドに静寂が広がる。
聞こえるのは微かな吐息と、時計の音。
温かい背中の体温に最初こそ意識して体を強張らせていたが、次第に心音はゆっくりと落ち着いて、穏やかな気持ちになっていた。
それもそうだ、二歳からずっとお昼寝やらお泊まりやらでよく一緒に寝ていたし、落ち着いてしまうのもしょうがない気がする。もはや孝太郎は俺にとって空気のようなものなのだ。いい意味で。
(孝太郎の匂い、結構好きだし)
孝太郎が何かしらしてくるかと思ったがそんな事はなく、ちょっと残念なような気持ちで微睡みの底に落ちようと身体から力を抜いた。
「樹? 寝たか?」
「……起きてるよ」
背中から聞こえてくる声にふっと意識が覚醒する。なんだこいつ起きてたのか。
「なに、こーちゃん」
「……くっついてもいい?」
俺の答えを待たずに、冷たい手がこちらに伸びてくる。その手は探るように俺の髪、頬に触れる。
「手、冷たい」
「うん、ごめん」
「……ん。いいよ」
ごそごそと壁側を向いていた身体を反転させ、孝太郎に向き直る。薄暗い闇の中でもはっきりとわかるほど、孝太郎は甘く微笑み、俺に手を伸ばしてきた。ぎゅうと抱きしめられ、孝太郎の胸に顔を押し付ける形になる。
「いっくん」
「……寝れないの」
「……。はぁ…寝れないよ」
「なんで?」
ちょっと身体を離し孝太郎は呆れたように眉を潜める。
「樹俺の事不能だと思ってない?」
「ふのっ…!」
「好きな子が隣で寝てて、穏やかに寝れるわけないだろ」
そのまままたぎゅうと抱きしめられる。それはつまり、お誘いというか、そういう事なのだろうか。
好きな子という単語にも過剰に反応して、またしても顔が熱くなる。
「あの、その」
「大丈夫。何もしない」
俺の思考を読み取ったように言葉を先回りされる。何もしないと言った割には、首すじに顔を埋められ鼻先を押し当てられる。犬のような仕草がくすぐったくて身をよじるも隙間を埋めるように抱きしめられた。
「……抱きしめてるじゃん」
「これくらいは許して」
「心臓の音、凄いな」
「樹だって」
頬に伝わる心臓の音が、どちらのものなのかはわからない。けど、嫌じゃなかった。
「……したい?」
「え、」
「その……えっちな事とか」
男だから、この状況が辛い事くらいはわかる。それにさっきのキスで自分も不完全燃焼の状態だったから、少し期待もしていた。
そんな俺の期待をよそに、孝太郎は降参、と手を上げる。
「……したいっていえば、したいけど。我慢します」
「……やっぱ、俺じゃ無理?」
「なんでそうなる。……一昨日、あんな事があったばっかだ。怖かったろ。なるべくなら、お前がしたいと思うまで待ってあげたい」
「怖かった、けど」
「もう嫌なんだ、お前が泣くのは。大事にしたいし、優しくしてやりたい。だから、お前が望むまで、ずっと待つよ」
「……なんで、そこまで」
「樹が好きだから」
慈しむように、額にちゅ、とキスが落とされる。
孝太郎がそこまで考えてくれてたと思うと、涙がにじみそうなほど嬉しい。それをグッと我慢して、孝太郎の首すじに擦り寄る。
「あぁ、もう寝る?」
「……したい」
「は?」
「したい。こーちゃんと、そういう事が、したい」
ぎゅうと孝太郎にしがみつくと、孝太郎は身体を硬直させた。さっきまでぎゅうぎゅう抱きしめてきた腕をうろうろと彷徨わせてどうしようと悩んでいる。
「い、樹。無理しなくていい、俺に気を遣わなくてもーー」
「ああもう、馬鹿!」
自分の唇を孝太郎のに合わせる。経験なんてないので、押し付けるだけの稚拙なキス。
それだけでも燃え上がるように身体が熱くなった。
「俺がしたいの。部棟で犯されかけたとき、どうせならお前がいいって思った。だから、だからーー、記憶を、感覚を、忘れさせて。お前がいい、お前に、触れられたい」
「……っ!」
強く肩を掴まれた、と感じたすぐ後に、背中に柔らかい布団の感触。
目の前には、頬を赤くした見慣れた幼馴染。その視線は、初めて見る荒々しい感情が浮かんでいる。
「本当に……いいのか」
「……好きにして、いい。孝太郎」
もう止められないことはわかっていた。止めてほしくないという自分の気持ちも。
孝太郎の瞳の奥に、ざわりと欲情の炎が宿るのが見えた。
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