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傲慢なお客様
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<13、傲慢なお客様>
「いただきます」
「めしあがれ」
律儀に手を合わせてから食べ始めた食事は流石というかなんというか、とても美味しかった。空きっ腹にまずいものはなしとはよくいったもので、一口ずつ味わいながらいただいた。
卵がゆは絶妙な塩加減で胃に優しく、温かいほうじ茶も冷えた身体を暖めるには十分だった。デザートに心配した楓が必死になって作ってくれたぶどうゼリーも食べ、頬をゆるめた。
「はー……うまかった。風邪も悪くないなあ」
「馬鹿言うな。早く治せ」
ほくほくしながら感想を述べると厳しい言葉が返ってきた。うん、早く治そうと思ってるけど、風邪の時はなんだかみんなが優しくしてくれるから甘えたくなってしまう。厳しい言葉を言いながら、俺がちゃんとご飯を食べられていることに安心した顔をする孝太郎。素直じゃないなあとほうじ茶をすすりながら笑う。
「ありがと、孝太郎」
「……なに。もうこーちゃんって呼ばないの」
「そんなん、小学校の頃の話だろ。今更何言ってんの」
「昨日は呼んでた」
げ。熱でなんか変なことを言ってしまったか。
「なんか言ってた? 俺」
「どこにも行くなーとか、行っちゃやだー、とか。昔のこと思い出したのか泣いて泣いて大変だった。挙句の果てに俺のこと布団に引きずりこんで寝るし。何がしたかったの」
全くと言っていいほど全然覚えてない。布団に入ってぐるぐる考えてるうちに眠ったことだけは覚えてるけれど、それ以外は本当に無意識に近いものだったのだろう。やらかしたなーと顔を赤くしながら謝る。
「ご迷惑おかけしました」
「まあ特に気にしてないから。もう寝るか?」
少しのだるさはあるが身体のほうに問題はない。何時間寝ていたかは知らないがおそらく相当寝ていたのだろう。身体の節々がバキバキする。ずっと寝てばかりいるのはつまらないし、孝太郎とでも話がしたい。
「ここいちゃ駄目? 邪魔なら寝る」
「いーけど、無理すんなよ。ぶり返すと困る」
「なあ、ココア飲みたい。あとなんか話して」
「すっげーワガママ」
くすっと笑うと食器を片付け始めた。俺も手伝おうとするとやんわり断られてしまったため、リビングのソファーに膝立ちになり、キッチンの孝太郎を見つめる。無駄のない動作で食器を片付けていく男に、ぽつぽつと言葉を投げかける。
「今日学校なにしてたの」
「物理と、数Ⅱ、リーディングとか。春哉(はるや)が当てられて集中攻撃されてた。心配してたぞ」
「あれ野田の名前春哉だっけ」
「それ春哉が聞いたら泣くな、絶対」
「今日の夕飯なに?」
「お前の好きなもん作る」
歌うように、上機嫌な声音。ワガママと言いながら決して俺の要望を断ることはせず、むしろそれ以上に甘やかしてくれる。風邪のときだけじゃない。普段から、この優しい幼馴染は俺を甘やかしてくれる。ズキズキと胸が痛い。
(なんでそんな優しいんだよ。俺をぐずぐずに甘やかしても何の意味もないぞ。そんなことばっかしてるから、俺は――)
俺は、なんだ?
「樹。ココア砂糖どれくらい入れんの」
「……うぇっ?」
「なんだようえって。砂糖。いくつ」
淡々とした声が俺を現実に引き戻した。前と同じと言うと孝太郎は作業に戻っていった。
バクバクと心臓が破裂しそうに動いている。最近おかしい。些細なことで動揺したり、孝太郎にいちいちときめいたり。
「……なあ、昨日のあれって」
些細なことが気になって口を開く。聞いてどうする。別に俺に関わることなんてないし、聞くべきではないのかもしれない。
(でも、その些細なことに重要な何かがある気がする。とても大切な何かが)
「孝太郎、あの人は――――」
ピンポーン、とインターホンのベルが鳴った。
話を遮られてしまったのは残念だが、一応玄関まで行き、ドアを開けて扉の外の人物を確認する。同じ高校の制服を着た、知らない女の子だった。
「はい、何か用ですか」
「……あなた、佐藤君、よね? 孝太郎はいる?」
気の強そうな瞳。その瞳には、有無を言わせないような力があった。何も言えない俺を押しのけて、ずかずかと部屋に上がりこむ。
突然現れた傲慢な客に、俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
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