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2.元晴との出会い-2
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数日が過ぎれば授業にも慣れて来て、朝起きるのも苦痛にならなくなって来た。
「んー…作るか」
昨日炊いていた白米をお握りにして軽く塩を振る。
次に卵焼きを焼いて昨日の夜に作り置きしていた弁当用のハンバーグを温め、弁当箱に詰める。
子供の頃桃李がいた時は、弁当も朝ご飯も夜ご飯も全て作ってくれていた。
その時は、李登は何も作る事ができなかったが、桃李は自分がフランスに行くと決めた時から李登にもキッチンに立たたせるようになった。
桃李は自分がフランスに行ったら、李登の栄養管理は誰が見るのかと思い、教えてくれたようだ。
李登の家は別に家政婦がいるわけではない。だからと言って家に来る父と母の秘書や会社員の人達が作ってくれるわけでも無い。
ただ、生活費が毎月テーブルの上に置いているだけ。
それは桃李が小学校に入った時からそうだったようで、でも李登が生まれてから桃李の考えが変わったらしく、風邪を引きやすかった李登の為に、栄養を考えてくれる様になった。
今は桃李のお陰で風邪を引くのは年に何回程度になり、昔よりも健康になった。
市販ばかりを食べていたらこんなに健康に育つことは無かったと思う。
それに、桃李の作ってくれたホットケーキはただのホットケーキではなく、いろんな工夫をしてくれていた。
それが美味しくて、李登は桃李の作った物が大好きになった。
そんな桃李の手料理を食べて育った李登だから、李登の料理も桃李の味と似ていた。
「良い匂い。上出来だな」
出来上がった弁当は見た目もカラフルで、単色になっていない所が自分でも関心する部分だ。
「はぁー…誰かに自慢したい」
誰かに見て欲しいけれど、自分から見てと言うのも恥ずかしいので言えない。
時々陽二が気付いて褒めてくれ、味見してくれる。
すると、良い感想を言ってくれる。
けれどなんだか物足りない。
何が物足りないのか自分自身分からないが、嬉しいのには違いが無いから素直に受け止める。
「今日雨降ってるんだよな…」
外に出ると、雨が降っていた。
それを見て、李登は落胆する。
そして、いつもの道は泥はねがすごいのを思い出し、河川敷の方を通って行こうと決める。
「よーし、行くか!」
李登はいつもとは逆の方向を選び、水溜りを避けながら進んだ。
そっちの道だと駅までコンクリートが続いているので歩きやすい。
「今日はバイト無いから帰りは買い物して帰るかな」
雨の音を聞きながら、李登は今日一日の計画を立てる。
「ん…なんだろう……?」
河川敷の真ん中に差し掛かった時、小さく犬の鳴き声が耳に入った。
李登はいつもの習性でその犬を探す。
けれど、飼い主に触らせてもおうと思ったのに、辺りを見渡しても犬も人もいない。
「気のせいか…?」
今日は雨だ。そんな雨の中散歩をする人は少ないだろう。
けれど犬の声は気のせいではないようだ。
「どこだろう……ん?」
川の方を見ていると、雨に濡れた段ボールが一つ置いてあった。
李登は慌てって下に降り、その段ボールに向かった。
「やっぱり…」
李登が予想した通り、段ボールの中には薄茶色でお腹周りだけが白くなっているポメラニアンの仔犬がいた。
段ボールの中にはモーフも餌も水も何も入っていなくて、見るからにまだ捨てられて時間は経っていないようだったが、仔犬は震えていた。
李登は仔犬を抱き上げて空の段ボールを持ち、木が何本も重なって雨が当たっていない所を探し出してそこに段ボールと仔犬を置いた。
「飲めるかな…?」
李登は鞄から水が入ったペットボトルを取り出し、蓋に水を入れて仔犬の前に置いた。
まだ人間不信になっていなかった仔犬は、素直に李登が置いた水を小さい口でぺろぺろと飲んでくれた。
「ゆっくり飲んでいいよ。まだあるから」
李登は仔犬の小さな胴体に触れ、警戒心を無くそうとした。
すると、仔犬は李登に甘え出し、お腹を見せてきた。
「可愛いなぁー。お前、俺が好きか?」
李登は愛らしい仔犬に向かいデレデレな顔でそう仔犬に聞く。
「そうかそうか。俺も…好きだよ……」
愛しいのにいじらしい仔犬を見ていると悲しくもなった。
こんなにも人懐っこいのに捨てた人間が信じられない。
そう思い、李登は涙が出た。
自分の置かれている状況が分かっていないくらいの小さな仔犬。
人を怪しむ事も知らずにまだ無邪気で、人と遊びたいと体全体を使って表現する仔犬を見ていると、尚更涙を誘って来る。
「ポメラニアンの捨て犬なんて初めて見たな…。こんなに可愛いのに…」
ポメラニアンは室内で飼う事ができていたって飼いやすい犬だ。
性格は活発だが頭が賢く飼い主に忠実で、今はカットもできるようになり、昔以上に人気を得ている犬でもある。
捨てるよりも誰かに貰ってもらう事もできたような気がするのに、仔犬は捨てられた。
性格に難がありそうでもないし、まだ仔犬だ。
貰ってくれる人もいるし、卑劣だが、お金を安くして売る事もできたはず。
「あれ? どうした?」
仔犬が急に立ち上がり、李登の鞄に鼻を摺り寄せて来た。
李登は仔犬が弁当の匂いに気付いたと分かり、鞄から弁当ではなく、ポン太にあげようとしていた鳥のささ身を袋から出して、小さくちぎって食べやすいようにしてから渡してみた。
「あれ…?」
すると、李登は仔犬の動きが少しおかしい事に気付いた。
右の膝が少し外側に曲がっている。
それを見て、李登は思った。
もしかしたら、先天的なものかもしれない。それが原因でこの仔犬は捨てられたのかもしれないと思った。
「俺が飼ってやれたら良いのに」
自分が飼えない事が分かっているからこそ尚更辛い。
ここでも自分の不甲斐無さが身に染みてしまう。
「俺が飼う…」
頭上から低い声が聞こえた。
李登はその声を聞き、素早く後ろを振り向くと、黒づくめの深く帽子を被っている男が傘も差さずにずぶぬれになりながら立っていた。
「俺、そいつ飼う…」
なんだか気味が悪い男だが、飼ってくれると言うのなら素直に渡すしかない。
「良いんですか…? この子少し足が悪いみたいなんですが…」
李登は自分で発見した事をちゃんと説明した。
飼ってから知らなかったと思われて、また捨てられる事もあるかもしれないと思ったからだ。
「…気にしない」
男は頷きそう言った。
李登はそう聞いてほっとした。
捨てる人間もいるのなら、こうして拾う人間もいるのだと感心して、嬉しくなる。
「良かったな。新しい飼い主見つかって」
李登は仔犬を抱きかかえて仔犬以上に喜んだ。
「あっ! やばい! 時間がない!」
時計を見ると時間に余裕が無かった。
早くここから出ないと授業に間に合わない。
李登は仔犬をその男に渡して走ろうとしたが、男は抱き方も分からないみたいで抱き方を一から教えるしかなかった。
「俺、もう行きすけど…その子幸せにして下さいね」
「………」
男は返事を返してくれなくて、李登は大丈夫かなと不安になったが、初めて飼うならこんなもんかと思う事にして、李登はその場を後にした。
でも、この事を李登は後悔する事になるのだった。
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