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2.元晴との出会い-4
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「く…暗…」
河川敷は李登が想像していた以上に暗かった。
もしかしたら、電灯が白では無くオレンジ色だからこそ暗く感じるのかもしれない。
「この暗さ普通に無いだろ…。やっぱりあっちの道通れば良かったかも…」
道を進みながら、後悔ばかりが押し寄せる。
それに、足元ばかり見ているせいで時間が長く感じられ、いつも以上に時間を掛けて前に進んでいる気もした。
「早く帰りたい…」
湯船に浸かって、昨日の残りご飯を食べて寝たい。
けれど、まだまだ時間が掛かりそうだ。
「そう言えばこの辺りだったよな、仔犬がいたの」
李登は今朝を思い出し、意味が無いのにその場所を見渡した。
そして、歩き出して前に進もうとしたら耳に今朝聞いた鳴き声が聞こえて来た。
李登は空耳かと思い、自分はどんだけ犬が好きなんだと呆れてしまう。
けれど、また声が聞こえた。
「あれ…? また聞こえる……」
消え入るような力のない鳴き方。
「空耳じゃない!」
これは空耳なんかじゃない。
そう確信を得た。
「ど、どこだろう」
李登は目を凝らし、じっくりと辺りを見渡しながら、携帯でライトを点けて視野を広くする。
すると、そこには存在するはずのない仔犬がいた。
「う…嘘だろ…」
李登は顔が真っ青になった。
震えも止まらなかった。
「やばい…助けなきゃ」
李登が見付けた犬は、今朝見た仔犬で間違いなかった。
けれど、今朝見た元気な姿はそこには無くて、仔犬は横たわり動けずにいた。
体は傷だらけで血が流れ、李登は駆け寄り、持っていたハンカチで止血を始めた。
でも、血は押さえても止まらない。
「どうしよう…どうしよう…」
李登は一人、混乱に陥った。
「こ…こんなことに…なるなんて」
傷口を見ると靴底の後が付いている。
蹴られたり踏まれたりした痕に見えた。
「お、俺のせいだ……」
犯人はあの男しかいない。
「だ、大丈夫…おっ俺が助けるから」
仔犬はフーンフーンと鳴き、苦しそうに李登に助けを求めている。
このままではこの仔犬は死んでしまう。
それは絶対にさせたくない。
「俺が何とかする…何とか…。そ、そうだ!」
ふと、李登は学校で話しが出ていた天宮動物病院を思い出した。
「陽二にきっ、聞こう」
李登は震える手で携帯を開き、陽二の番号を押した。
陽二はもしかしたら今はバイト中かもしれない。
出る確率は低いかもしれないが、今の李登には陽二しか当てにできる相手はいない。
(陽二出て…お願いっ……)
何度もコールは鳴り、その間、ずっと李登は心の中で陽二が出る事を願った。
けれど、陽二は出ない。
「ようじぃ……っ」
陽二が出ない事と、抱き締める仔犬の息が小さくなる事に不安が募り、李登は泣いてしまう。
『李登?』
無理かと諦めていると、突然ガチャッと通話になり、陽二の声が聞こえた。
(で、出た!)
『どうした?』
陽二が電話に出てくれた。
「ご…ごめ…バイト中なのに…」
李登は声が震え、大きな声がでなくなっていた。
『大丈夫か?何かあったのか?』
そんな李登の異変に、陽二は李登の異変に気付き、優しく聞いてくれる。
「あ…天宮動物病院の場所教えて…欲しいんだ…」
『分かった。俺、ちぃの診察カード持ってるからそれ写メしてすぐに送るからな』
「う…うん。ごめ、ありが…とう」
陽二はポン太に何かあったのだと思ったようで、深く何も聞いてこなかった。
『何があったかは、今度聞かせろよ』
「うっ、うん……ありがとう」
李登はお礼を述べ、次会った時にちゃんと説明しないといけないと思いながら電話を切った。
「来たっ!」
陽二から何分も経たない内にメールが来た。
そして、李登はメールを開いてすぐにメールの内容を読む。
そこには写真が添付されてあり、診察カードに記載された診察時間や場所が書いてあった。
けれど、診察カードに書いてある診療時間がもう過ぎている事に気付き、李登は愕然としてしまう。
「終わってる…。でも、ここしか無いよ」
李登はここに行くことに決め、着ていたパーカーを脱いで仔犬に巻いた。
そして仔犬を抱きかかえて走り出す。
(誰かいてくれ…)
誰かが病院内にいれば気付いてもらえるはず。
けれど、信号で足が止まると、もしいなかったらと嫌な事が頭を過ぎてしまい、李登は仔犬を見て自分を奮い起こす。
「俺が、俺が助けなきゃ…」
仔犬はどんどん鳴き声を小さくさせる。
(絶対に死なせない)
李登は暗い中、足元をもたつかせながら一所懸命に走り、明かりが光る街中へと急いだ。
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