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いつもと違う場所
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「じゃっ、俺、先にあいつ(前妻)とこから鍵もらってくるから、加藤は先に少年とこ行っといて。」
ぽんっと背中を叩かれ、成康は「あっ」と不安な声で黒田を見送った。
「……」
いつも来ていたモールが、今日は吐き気がするくらいクラクラする。
靴はまるで雨水が入ったように重かった。
それでもここに立ち尽くしているわけには行かない。
足は少しずつ、前へと進んでいけた。
あんなに重い気持ちだったのに、モールに来ると足は引き寄せられるように、無意識のように雄大のいるお店へと向かっていた。
会いたいけど、会いたくない。
不安定な気持ちのまま、お店が見えた。丁度、見た事のあるスタッフの女の子が、表で作業していたため、成康は斜め前のお店に急いで隠れた。
成康はその辺にあったピンクのボトルを手に取り、ちらりと雄大のお店に目だけを向けた。
お店はちらほらと人が入ったり、出たりしていた。
表にいた女の子はカラオケに来ていた西川さんだとわかった。
(今日は雄大君、いないのかな?)
首を伸ばして伺うが、見えるのは西川さんだけだった。
チラッとでも見たい。
ここに来るといつも思う。
雄大がくるくるとあの狭い店内をまわりながら、にこにこ笑って接客しているのを見るのが好きだった。
忙しそうなら声を掛けずに、そっと前を通る。
ただそこに雄大がいるだけで幸せだった。
こんなにも自分は独占欲が強いとは思っていなかった。こんなにも自分に欲しいモノがあるとは思わなかった。
しかし、それ以上に自分はなんと脆いんだと痛感した。
”僕は成康さんが好きなんですから。”
何故かその言葉を疑ってしまった。
「くっ!!」
「あの!!」
ハッとして顔を上げると、バッチリ化粧を施した女性が、困った顔で成康を覗き込んでいた。
「贈り物ですか?」
「えっ?」
女性に手で差され、成康は自分の手で握りしめているものを見た。
「そちらは新発売の化粧水になりますが…」
ようやく自分が化粧品を扱う店に入っていた事に気付いた。
「あっ……」
強く握ったせいか、ボトルが少し凹んでいる。
「これ、買います。」
成康はできる範囲の営業スマイルを浮かべた。
すると店員は警戒を解いたかのように、笑顔で成康から化粧水を受け取った。
「贈り物で?」
「いえ……あっ…と……」
「あっ、ご自宅用ですね!」
店員は”察したから大丈夫よ”と言うかのように大きく頷いて、レジへと向かった。
成康は大きくため息をついて、もう一度、雄大のお店に目を向けた。
「!!?」
お店に足取り軽く入っていく、紺のスーツの後ろ姿があった。
「く、黒田さん!!?」
成康は急いでレジへと走った。
「あの!おいくらですか??」
「3200円です。」
「高っ。。いや、じゃあ1万からで!」
「あっ、1万円、お預かりします。」
(入る前に止めるつもりだったのに!)
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