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店長の助言
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コンコン
スタッフルームの扉を叩き、いつもはしないのに一旦間を置いた。
中からは特になんの音もせず、私はそっとドアノブに手をかけた。
キイッ
音が部屋に静かに響く。
静まった部屋に入ると部屋の真ん中にあるテーブルに顔を伏せている金色の頭があった。
「……」
私はその頭に近づき、行儀悪いが、テーブルに浅く腰をかけた。
金色の髪は少し揺れていた。
(泣いてる?)
そう言えば不機嫌な顔をしていたのは、目が腫れていたからかもしれない。
「雄大君。」
私はそのお人形みたいな髪に手を伸ばし、声をかけると雄大君はピクリと反応した。
「何かあったの?」
「……」
「仕事の悩み?」
雄大君は首を振った。
「家庭の悩み?…違うか…」
私は「うーん」と唸り、ふと目の前のロッカーを見た。
「上村君に関係する事?」
雄大君は一瞬迷っていたが、すぐに首を振った。
(…違うのか…)
サラリと雄大君の髪を撫でた。
「…恋?」
雄大君はビクリとした。
「そっか…」
一番、苦手な分野だ。
(こう言う時、女の子同士だったら、西川ちゃんとかズカズカと踏み込めるんだろうな…)
既婚者で、男で、私にはどこを踏み込めばいいのかわからなかった。
が、金髪にして、人前で泣く程の恋をしている雄大君は、とても傷ついて見えた。
私は雄大君の細い髪に指を入れた。
「金髪、王子様みたいで似合うね。」
私は梳くように髪を撫でた。
「辛い…よね。恋は。」
すんっと鼻をすする音がする。
「楽しい時はいつもより倍楽しいけど、辛い時は倍の倍辛い。こんなんだったら、恋なんてしないほうがいいって思う。」
雄大君は「くっ…」と小さく唸っていた。
「でもさ…」
震える頭を丁寧に撫ぜ、そっと雄大君の頭に顔を近付けた。
「好きって気持ちは倍の倍の倍、抑えきれないよね。」
「うっ…」
雄大君は壁が決壊したかのように泣き出した。
「大丈夫!次の恋に行けば、すぐに忘れてしまうよ!」
焦った私は無責任なことを言ってしまったが、雄大君は何故か首を振った。
「?」
「でも…その人は僕のことまだ愛しいって言ってくれたんです。でも、でも…もう自分の事は忘れてくれって。じゃあ、僕はどう折り合いをつければいいんですか?どう諦めればいいんですか?」
「……」
うっうう…
小さな涙が部屋中に響く。
私はふっーと息を吐いて、雄大君に囁くように声をかけた。
「大人になれば、感情だけで動けなくて、その後ろの背景とか将来とか色々考えてちゃうんだよ。」
「…それは僕がまだ子供って事ですか?」
「違うよ。まだ臆病じゃないってこた。」
「…よくわからない。。」
「そうだよね。まぁ、言うなれば、そんな事言う奴は臆病で、自分に自信がないヘタレ野郎なんだよ。そんな奴に人生を預けなくてもいいんだよ。あと、もっと簡単に言ってしまえば、その人とは縁がなかったんだよ。」
「…縁?ですか?」
雄大君のくぐもった声が聞こえる。
「そう。人には縁がある。それは恋でも仕事でも電車の中でもある。私は雄大君に会えたのも”縁”だ。」
「…縁。」
「上手くいく縁もあれば、途中で切れてしまう縁もある。それに縁がなかったと言えば、なんとなく納得して次に行ける気がしないか?」
自分自身でも力技だなと思うながらも、ドキドキとして雄大君の頭を撫でていた。
「縁が…なかった。。」
自分が押し付けた言葉なのに、そう雄大君に言われた時には、罪悪感にも似た胸の痛みがあった。
(しかし、雄大君の恋人は何で雄大君を振ったんだろう?)
「店長さん。」
休憩中の私は見知らぬ声をかけられ、私は立ち止まった。
振り返ると背の高いすらっとしたスーツの男性が手を振って、駆け寄ってきた。
「よかった。ここで会えて…」
地下の食品フロアはもう夕飯時間を過ぎてるせいか、あまり人がいなかった。
「加藤さん。」
加藤さんはいつもニコニコしているが、今日は口の端が切れていて、痛々しかった。
「先日はお騒がせしました。」
「いえいえ、うちのスタッフが申し訳ございませんでした。」
「あっ、いや、俺がふっかけた訳だし…」
言いにくそうな加藤さんに私はあえて何も言わなかった。
(この人も不思議なひとだ。)
鼻筋が通っていて、とてもバランスのいい端整な顔をしている。
背の高くてすらっとしていて、誰が見てもかっこいいせいか、なんでも見透かされそうで、どこか近寄りがたかった。
ふとそんな事思っていると彼は大きな紙袋を手に下げていた。
それは先週できたばかりのスーツ専門店の紙袋だった。
(こんな時期に新調?)
私の視線に気づいたのか、加藤さんはハッと紙袋を後ろ手に隠した。
「す、すみません。」
私は不躾にジロジロ見たことを素直に謝った。
「新しいとこのだと思って…。あそこオーダーもできるって聞いたんで。いいのありました?」
なんとか会話の活路を見出そうとした。
「あっ…まぁ。」
加藤さんは言いにくそうに紙袋を撫でた。
「この時期にスーツ買うなんて…まさか、クリスマスのためとか?」
私が茶化すように言うと、加藤は言いにくそうに笑った。
「いえ…今度、お見合いをすることになって。。今手元にあるスーツは仕事用のだから、所々傷んでいたんで…」
加藤さんは何故か哀しそうに笑っていた。
「お見合い…ですか?」
「はい。。」
私はザワザワとした気持ちがわき上がってきた。
(雄大君は知ってるんだろうか?)
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