アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1章-p5 手
-
日が昇り始めた頃、ザムシルは家を出た。
早朝の風は少しひんやりしているが気持ちが良くて嫌いではなかった。市は早くからやっているし、早い方が客が少ない分商人と話がはずみ思わぬものを入手できたりする。
もちろん朝食は作り置きしてきていた。リラレルはすでに起きていたから、先に食べていてくださいと伝え、自分のものは後で食べようと保存庫に入れてきた。
住居にしている森を抜け、古い商店街を抜けて市へ出る。昨日見つけた道だが割と気に入っていた。
そうそうこの商店街でダードは仕事しているんだった思って、丁度店の前にさしかかろうとした時だった。
「ねえー!君ー!」
声をかけてきたのは、ダードが働いている店のあの女店主だった。
また何のつまらない話を意気揚々と話されるのかと覚悟したが、店主はそこそこ真面目な顔をしていた。
「バイトくんみてない?あ、そうダードくん。いつもこの時間に来て一緒にごはん食べてから働いてもらってるんだけど、今日は来てないのよ〜。お友達くん何か知らない?」
よく話を聞くとダードは時間にはしっかりした方で、こんなふうに無断で時間に遅れるような事は今まで無かったらしい。
「さあ、オレも知らんぞ。」
「じゃあさ、ちょっと家に見に行ってきてよ!」
なぜオレが行かねばならない、と内心キレそうになったが、前日までは我が家にいたのだから限りなく少ない可能性として原因の一端があるのかもしれない。
冷静にザムシルが思考を巡らせていると、店主はまだ了解もしていないのに、ダードの家の場所を説明しはじめた。
「じゃ、よろしく頼むよ、お友達くん!」
女店主に勢いよく背中を叩かれ、ザムシルはつくづく思った。こうゆう女は嫌いだと。
仕方なく言われた通りにダードの住む住宅を訪ねた。古そうだが、管理は行き届いていそうな建物だ。上の階らしいので錆びきった階段を上り、その部屋の前に行くと扉がほんの少し開いていた。
軽くノックをしてザムシルは入った。
「おい、ダードいるのか。あの女店主に無理やり行けと言われて来てやったぞ。」
やや散らかった物が少ない狭い部屋。奥の方で水が流れる音がしていた。少し嫌な雰囲気を察しザムシルは部屋へと足を踏み入れた。
主に使っているであろう部屋の隅、カーテンの向こうにシャワールームがあるようで、音はそこからしていた。
カーテンをずらすと、そこに探し人がいた。
所々に黒カビの見える古びた青黒いタイル張りのシャワールーム、彼はうずくまるように小さく座っていた。頭上のシャワーからは水が気力なく流れたれていた。
「何かあったのか」
ザムシルが声をかけると、ダードはこちらにほんの小さな視線を当て震えながら歯を食いしばっていた。
とりあえずシャワーの水を止め、適当なタオルで体をふき着替えさせ、ベットに寝かせた。その間ダードはずっと目を伏せたまま、歯を食いしばっていた。
何か温かいものでも作ろうと思ったが、部屋を軽く眺めたが大したものが無かった。
ザムシルはベッドの隣に座った。
「別にお前に何があったかなんて興味はない。ただ、あの女店主がうるさかったから来ただけだ。とりあえずオレは買い物もあるし、あの女にも一応報告にも行かなきゃならんから行くぞ。」
そう言って席を立とうとした時、ダードがザムシルの手をぎゅっとつかんだ。
「あのなぁ、オレはいそが…」
ダードは目を伏せ、歯を食いしばったままだった。ただ、その目からは涙が1粒垂れる。続くように溢れ出てきた涙がたちまちベットに降り注ぎ始めた。
「ガキじゃ無いんだから泣くな。」
そのうちダードは声を出して泣き始めた。こころの奥底から絞り出したような、そんな泣き声だった。
ザムシルは無言でベットの横に再び座った。
ダードの手はザムシルの手を、強く強く握っていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 48