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1章-p6 ウエルカム
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ダードはひとしきり涙を流し終えると、まだ呼吸が整わない状態のまま「ごめん」とザムシルに何度も言った。
ここまで激しく泣かれるとザムシルもどうしていいかわからず、謝られる度に手を握り返していた。
「で、どうしたいんだ。」
とりあえず水をコップに入れてザムシルはダードに渡した。
「ここには居たくない。」コップを両手で包みながらダードは言った。
「とりあえず店主の所に行くぞ。ここにいたくないならあの女に世話になるしかないだろう。ただし、泣き顔が治るまで待ってから行くって言うなら、付き合ってやらないからな。」
「このままでいい。」ダードは小さく言った。
女店主は泣きっ面のダードを見るとぎゅっと抱きしめて、「何があったか知らないけど、生きてたんなら良かったよ。手伝いはしばらく休んでいいから。」と言った。
「でだ、コイツは住処にいるのが嫌らしいんだが、店主が預かってやれないか。」
「それは別にいいんだけど、アタシは夜も違う仕事してるから、家でひとりにさせちゃうけど平気かい?」
ザムシルがダードの顔を覗くと、あまり平気な顔をしていなかった。
「…」
ザムシルはけわしい顔をして頭を抱えた。
なんだか少し面倒くさそうな事情を抱えているだろうこの男を預かるのかと思ったが、ふと同時に我が家でにこにこと微笑みながら「またおいで」と言っていた主の姿を思い出す。
はぁ、と大きなため息をつき
「家に来い、ただしリラレル様に迷惑かけたら殺すからな。」とザムシルは言った。
少し遅れたが今朝の買出しを済ませた。その間、手こそ握らないものの、ダードはずっとザムシルの服の裾を掴んだまま付いてきた。ザムシルは何度か離せと言ったが聞かなかった。
「お前、何か食いたいものはあるか」
ダードは首を横にふった。
「じゃあ、オレが強制的にお前の食事は決めるからな。」とザムシル少し悪そうな顔で笑っていた。
色々あったせいで市場は混むし、泣きっ面の拾い物の足は遅いしで帰ったのは昼前になってしまったが、軽く事情を聞いたリラレルは笑顔でダードを歓迎した。ザムシルはすぐに昼食の準備に取り掛かると言いキッチンへ立った。
ダードはリラレルに手を引かれ、この間クッキーを一緒に食べた場所に座った。
「なんだかよく分からないけど、辛いことがあったのね?でもいいわ、貴方がまた話し相手になってくれるなら私は嬉しいもの。」とリラレルは優しく微笑んだ。
「すまない、迷惑をかける。」
ダードは目を伏せたまま小さく言った。
「そんなことないわ、シナやシュフィがいなくなってしまって私も少し寂しかったの。たまに小人さんが遊びに来るけどずっといる訳じゃないし、ザムだってすぐふらっとどこか行っちゃうと寂しいのよ。」
リラレルはその後も他愛のない話をいつくかしてくれた。ダードは少し落ち着いていたものの、まだ頭が硬直しているようで、軽く相づちをうつだけで進んでいく話をありがたく感じていた。
そうこうしているうちにザムシルが料理を運んできた。まずリラレルの前に綺麗に野菜が盛りつけられたパスタが置かれ、ありがとうとリラレルが言う。
「お前はコレだ」
ドカッと音を立ててダードの前に置かれたのは厚い肉をそのまま焼いたものだった。
ダードが目を丸くしていると、
「オレは前々から思っていたんだが、お前は体が細すぎる。とにかく食え、吐いてもかまわんぞ。」
ザムシルは非常に爽やかな笑顔でそういった。
「肉はあまり好きじ…」
「居候する分際で口答えするな。」
「…」
これ以上反論すると本気で1発拳が飛んできそうなくらい目が恐ろしかったのでダードは観念して食べることにした。リラレルは「もうザムったら…なんだか楽しそうね」と笑っていた。
日が暮れた。
ダードはほとんどの時間リラレルが話し相手をしてくれたので気が紛れたが、昨日の今日の事で日が暮れるのにやや恐怖心があった。
夕食を終え、リラレルがシャワーを浴びに行っている間、ダードは夕食の片付けをしているザムシルをじっと見ていた。
「そう睨むな、だがここにいる間はオレの食事メニューと運動メニューに従ってもらうぞ。」
「運動メニューは聞いてない」
「今初めて口に出したから当然だな。」
夕食も吐くほど量を出されたが、なんとか詰め込むことが出来た。
しばらくするとリラレルがシャワーから上がってきた。綺麗なレースのネグリジェを着ていた。ダードはなるほど、彼女らしいセンスだなと眺めていたらザムシルに「いやらしい目で見たら殺すぞ」と本気で言われたのであまり見ないようにした。
「2人もシャワー浴びてきなさい。もちろん2人で入るんでしょう?」
「はい?」
「…」
一瞬空気が固まって、リラレルはあれ?と言う顔をした。
「だってダードは今日あまり独りになりたくないんでしょう、だったらもちろん一緒にシャワー入るわよねザム?」
「いやいや、それくらい1人で入ってもらわなくては困りますよ。なあダード?」
「…」
「ほらぁ!ダードだって言いづらいけど、本当は一緒にいて欲しいのよね?ザムが嫌って言うなら私と一緒に入りましょう。」
「いやいやいや、駄目です。リラレル様と一緒になんてオレが許しませんから。」
「じゃあ決定ね、もちろん寝るのも一緒の布団で寝てあげるのよ。」
「…」
「そんな困った顔しないの、ザムが連れてきたんだもの、しっかり面倒見てあげなさい。」
「…はい。」
ダードは二人の会話をただぽかんとしながら聞いていた。
ザムシルはなんだかんだ文句をはさみながら、着替えを貸してくれたり、どの石鹸を使っていいだとか教えながら一緒に入ってくれた。こころなしか落ち着かないような顔をしていたので、やはり嫌だったのかとダードは思った。
シャワーを終えしばらくして布団に入る。二日酔いで使ったベットだ。リラレルは一緒に寝なさいと言っていたが、ダードが布団に入るとザムシルはベットのすぐ横の難しい本が積まれている机の前に座った。机を少しいじると小さな優しい電気が付いた。
「流石に一緒に布団に入ると狭いからな、ここでいいだろう。」
「寝ないのか?」
「まあ別に眠らなくても、オレはリラレル様の妖力供給で生きていけるからな。睡眠はたいして重要なことじゃない。気にしないで寝てろ。」
「そうか…」そう言うとダードは布団を肩まで引き寄せ、軽く目を閉じた。
「なぁ、ザムシル」
「なんだ。」
「なんで助けてくれたんだ。」
ダードはずっと考えてた疑問を投げかけた。
「仕方ないだろ。あの女店主にお前を押し付けられたんだ。」ザムシルは机に向かったまま言った。
「それだけで、か。別にあの人に頼まれても無視して俺を置いていくことも出来ただろ。なのに…」
しばらく沈黙が続いた。
「お前が...あんまり強くオレの手を握るから、振り払えなかったんだよ。」
「え…」
ダードは驚いたようにザムシルの横顔を見ていた。
「ガキみたいに泣き散らされて、まるでオレの助けだけを待ってたみたいに握るから、見捨てられなかったのかもな。」
ザムシルは視線も合わせず、頬杖をついてそう言った。
ダードは何かもっと機械的な利点があって助けられたのかと思ったていたが、意外にもザムシルの動機は情に溢れたものだった。
つまりは彼の良心に、優しさに救われたのだ。
「そう、か...。」
そう言ったダード目には涙が滲んでいた。
「いや、訂正だ。お前がいた方がリラレル様が嬉しそうだと思ったから。で、どうだ。」
ザムシルは不機嫌そうな顔でそう言い直したが、ダードは目をつぶったまま先の言葉を深く受け取っておく事にした。
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