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6章-p5 彼ら
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エヴィンを倒し意気揚々と帰路につく彼らだったが、結局のところ日も暮れかかった夜に近くの町を探すことは叶わなかった。それで代案としてでたのは、あの破壊された村で一晩過ごすことだった。
村に戻ると、生き残った村人達はリラレルを称えるように迎えてくれた。
ザムシルは、村に置いてきた大きなバックをひっくり返すように開けると、ありったけの食料を取り出し村人を含め晩餐を行うことにした。村人達も感謝を込めて無事だった食料を差し出してきたが、ザムシルはそれを断り今後の村の復興の糧にするようにと諭した。
皆で火を囲み話をしていると、暗い顔をしていた村人達も少しずつだが表情が緩んでくのが分かった。それはお世辞にも豪華な食事とは言えなかったが、これからここで暮らしてゆく村人たちにとっては大切な一時になるのではないかと思われた。
リラレルを中心に人が集まり話をしている。エシは常にリラレルの隣に寄り添っているし、ヌメリは早々にいびきをかいて寝てしまっていた。
その人だかりからすこし離れた場所で、ダードは星を眺めるように横になっていた。ふと足音に気が付きそちらを見ると、ザムシルが隣に腰掛けてきた。
「リラレルの近くにいなくていいのか?」
「あいつが居るから行く気になれんな。…お前体調の方はどうだ。」
「心配するな、悪く無い。リラレルとの契約のお陰か、以前と違って全然体の痛みもないし絶好調だ。」
それを聞くとザムシルはダードに手を差し出した。
「左手」
見せろと言う事に気が付いて、ダードは起き上がると左手の手袋を外しザムシルの手の上にその手を乗せた。
ザムシルはダードの手を両手で優しく撫でるように触った。その手は以前より遥かに短くなり、第二関節から上が消失していた。親指に関してはもう指と呼べる長さは無かった。
「…痛みは?」ザムシルは囁くように聞いた。
「無いよ。さっきは落としたコップをとっさに拾おうと思ったら掴めなくて焦った。」ダードは笑い話のようにふふっと笑った。
ザムシルはダードの手を自分の頬にしばらく当てると、その手に小さく口付けをした。
「…ザムシル、そんなに心配するな。エシなんか腕がなくても何でも出来てるだろ。」
「あの男と比べるな。あんな男の腕一本より、お前の指の方が俺にとっては尊いのだ。」
ザムシルは手を離すと、ダードの唇に軽いキスをした。
「ザムシル、誰かにみられたら…」
「見られてなんの問題がある?お前は少し人の目を気にしすぎだ、オレの恋人なんだから堂々としていろ。」
ザムシルは向こうで食事の片付けをしてくるからと立ち上がった。ダードの方を振り返ると。
「不便があったら遠慮なくオレを使ってくれ。今日の事はお前のお陰で上手くいった。ありがとう、ダード。」そう優しく微笑んだ。
去っていくザムシルの後ろ姿をみながら、ダードは頬に熱を感じた。なんであいつはこんな俺の事を大切に思ってくれるんだろう、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。あんなに強くて、優しくて、いい奴が俺の事を好いてくれているなんて…そう考えるだけで心と体が熱くなるように感じた。
こんな幸せな事あっただろうか。ダードは赤く染まった頬を膝に埋めると、ああ自分はザムシルの事がどうしようも無く好きなんだろうなと自分の感情に溶けるように浸かった。
────翌朝。
ダードは遠くから聞こえた話し声で目が覚めた。
湿ってひんやりとした空気と土の匂いが鼻を通った。
体を起こして見回すと、まだ日が昇っていなかった。昨日の晩餐の日は消え、ぱっと見渡してもリラレルとエシドゥルフの姿は確認出来なかった。ヌメリは変わらず昨晩と同じ場所で眠っていた。彼も今回の事で相当疲れたのだろう。
話し声はザムシルだった。遠くの方で壊れた大きめの家の前で村人と話をしているようだったが、ダードには何を話しているのかまでは聞こえなかった。
ひとつ伸びをすると欠伸がでた。両手を握り合わせるとやはり左手がとても小さく思えた。喪失感はあるが、不安は無かった。
一人でうろうろしているのもどうかと思って、ザムシルのいる方へとゆっくり向かった。大事な話をして邪険にされるのではとも思いながら、恐る恐る近づく。
ザムシルはダードに気がつくと会話を止めて「調子はどうだ」と声をかけてきた。
「おはよう。昨日と変わらないかな。」
と返すとザムシルはそうかと言って、再び村人と話の続きを始めた。
ダードは特に行く場所もないので話をしているザムシルの後ろにちょこんと座ってみた。ザムシルの話を聞いていると、どうやら村の再建についてアドバイスをしているようだった。ニオ達の時もそうだったが、ザムシルはとても面倒見が良い。普段は他人に興味はないとか、面倒事は御免だとか言っているくせにいざとなると本当に頼りになる。
少し経つと話が終わった様で村人はザムシルに礼を言うとその場を去っていった。
「村の再建を手伝うのか?」
ダードが尋ねるとザムシルは眉をひそめた。
「そこまでやる義理は無い…ただ、リラレル様の事だからどうせ今日には村を立つのだと予想してな。大したことはできんから少し役立つ情報を与えただけだ。」
「ザムシルは優しいな。」
ダードはザムシルの顔を見つめてにっこりと笑った。ザムシルは表情を変えずにダードの顔をちらとみると、村の中心へと視線を移した。
「これはリラレル様から頂いた優しさ…なんだと受け止めている。人から優しくされれば自分も人に優しさを返せる。酷いことをされれば酷いことを返したくなる。そうゆうものだろ。」
「それは俺も何となく分かる。」
「所詮あの方からすれば、それは優しさではなく自身の娯楽のような気まぐれなのだろう。でも、俺にとってはそうじゃなかった。」
ダードは何も言わずザムシルの横顔をただただ眺めた。
「オレの住んでた町もこんなふうにめちゃくちゃに破壊されたんだ。その日にオレはリラレル様と出会って救われた。」
「ザムシル…」
「お前が望むならそのうち話してやろう。」
ザムシルはふと村を見回すと、眉間にしわをうっすら浮かべた。
「ところでお前、リラレル様を見かけなかったか?」
「俺は見てないぞ、見回した限りでも見かけなかった。」
「昨晩の深夜からエシドゥルフと共に姿を消されてしまったんだ。」ザムシルはふぅと小さくため息をついた。
「心配か?」
「まあリラレル様が何をしようとオレに口を出す余地は無い。文句も言いたくないし、ケチをつける訳でも無い。ただ胸くそ悪いだけでな。」
眉間に深いシワを浮べながらそう話すザムシル。ダードは立ち上がって肩を付けるように視線を合わせた。
「すでに文句もケチもつけているじゃないか。何でそんなにエシを嫌うんだ?二人は好きあっているんだろ。」ダードはすこし困ったように少し笑いを浮べた。
ザムシルはふざけたようにそう聞いてくるダードの顔を不機嫌な顔のまま一瞬みると、再び視線を虚空へと戻した。
「あんな男リラレル様に相応しくないからだ。」
「じゃあリラレルに相応しいやつはどんなやつだろうな。」
何となくダードが楽しそうなのを察すると、ザムシルは「…もうこの話は終わりだ。反吐が出る。」と言ってその場から立ち去ろうとした。
「まっ…」
ダードはもう少し話しがしたくてザムシルの手を出す掴もうと左手を伸ばしたが、擦れた指がザムシルの腕を掠めただけで掴むことは叶わなかった。
触れられた感覚にザムシルが振り返ると、ダードは困ったような寂しいような複雑そうな表情をして伸ばしっぱなしの手をしばらく見つめていた。
ザムシルの視線に気がつくとダードは「なかなか慣れないものだな」と言って笑った。
ザムシルはダードのその手を握って体を寄せると強く抱きしめた。急な出来事に焦ってたじろぐダードの耳元に顔を寄せる。
「安心しろ、お前は俺に相応しい男だ。愛してる。」
そう言い残すとさっと体を離し、何事も無かったようにすたすたと去っていってしまった。
ダードは赤面したまましばらく立ち尽くしていた。
しばらくするとリラレルが帰ってきたもちろんエシドゥルフと一緒だった。どこに行っていたかはザムシルも尋ねなかった。ザムシルが言っていた通りリラレルはすぐにでも村を立つと言った。村人の中には滞在を望むものも多かったがリラレルは意見を変えることはしなかった。
「ごめんなさいね。だってここにもう用はないもの。」と笑って言った。
エシドゥルフはいつまでも寝ていた相棒を文字のごとく叩き起し荷物をまとめ始めた、彼らもまた村を立つようだった。
ザムシルがすでにばっちり準備してあった荷物を背負うと、すぐにリラレルは出発を宣言した。エシとヌメリに軽く挨拶をすると、村人達にもしなやかに手を振った。「さあ、行きましょう」と彼女はまた軽やかに歩きだした。
ダードも急いで後を追おうとしたら駆け寄ってきたエシドゥルフに呼び止められた。
「なんか、お前の力を使わせちまったみたいで悪かったな。本当にありがとう。」
エシの後からヌメリも付いてきてひょっこり現れた。
「お前ってただの泥棒野郎かと思ってたけど良い奴じゃん。今度困った事あったらオレが助けてやっから呼んでくれよな!」
ヌメリはそう言うと握りこぶしを差し出してきた。
ダードも拳を作り軽く小突くと、ヌメリはニカッと笑った。
「大した事じゃない、気にしないでくれ。」
「いいや、大きな貸しだ作っておいて損は無い。」
気がつくとダードの背後にザムシルが立っていた。
エシもザムシルに気がつくと手を差し出して言った。
「お前にも感謝してるよ、ありがとうザムシル。」
「残念だがお前とは握手を交わす気は無い。」
「ああ、じゃあいいよ。元気でな。」
「言われるまでもない。」
ザムシルはそう素っ気なく言うと、ダード手を引いてその場を後にした。
「もっとゆっくり挨拶すればいいのに」
「くそ殺人鬼に用はない。」
「え?」
「いや、何でもない。急げ、リラレル様に追いつくぞ。」
ザムシルは大きな荷物を持っているにも関わらず、駆け出すとすぐに姿が小さくなっていった。ダードは見失うまいと後を追い駆け出した。
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