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木蓮の季節
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貴仁は、自分で聞いておきながらも
少し後悔をしていた
結局自分には踏み込めない領域が有ると思えて仕方ないからだ
生きてきた地盤や、環境の違い、更にはセクシャリティの違いとは
どんなに愛しても追いつけるものではないのか?
だとしたのなら、ストレートであった自分は、どれだけ愛してもゲイである彼を心から解ってやれる事は出来ないと言うのか?……否、これは同性云々など関係無く、
異性愛においても、同じかもしれないな。などと改める。
すると、しばし沈黙を続けた龍希が言葉を紡いだ
「子供の頃が、一番色々しんどかったからさ、オレね、それで、前から思ってた事が有るんだ。」
「……え?」
聞き返した貴仁の方を少しだけ思いつめた瞳で見ると、
さらに続ける
それは真剣な声色だ。
「オレ達みたく、セクシャルマイノリティって言われちゃう人の事もさ、昔よりも、しっかりと話題になるのは嬉しいけど、」
一度言葉を区切ると、少し迷ったけれど言おう、と決意した感じの声と表情をのぞかせた
「それが、流行り言葉になったら怖いなってさ、思うよね。
大人達がさ、多様性って言葉の意味を履き違えてさ、理解すべき!もれなく全員が理解しましょう!みたいな、へーんな理解してそれが流行りになって定着するのが一番怖いよ。」
そしてなおも龍希は続けた。
その声色は既に落ち込むそれでは無くなっていた
どこか希望にも満ちたような。活力のある、それ。
「大人が言っていれば、
それは、子供にとって、正論になるし、新しい世界になるよね?
子供の世界って怖いから、それは流行りの言葉になってしまわないかな?
あのね?子供の頃ってしんどいよ
親にも言えないかもしれない、
どうすべきか分からないままで、ずっと自分の足元を見ながら、じーっとしてるんだ
歯を食いしばって、
沢山の我慢を身につけるの。
そこに流行り言葉としてLGBTとか多様性とかって単語だけが独り歩きで出てきたら、
それは、少し間違えたなら、とても怖い世界になる気がするよ。
子供にとって、覚え立ての言葉は、格好の遊び道具になるし。」
その龍希の言葉に、貴仁は、自分では思いもよらなかった観点に、その不甲斐なさを恨んだ
何故、この問題が、大人にしか大きな関係がないと思っていたのか。
すると、伏せていた瞳をそっと開いて龍希が「難しいけどさ」と続ける
「正しい知識を!…なんて言わないから、ただ、全部ね、そうなんだー。程度に緩やかに認識して、静かに見守ってくれたらいいな。
理解出来ない事は理解したくていいんだよ。
この国はさ、特異なものを、たいして変わらないよ。そう言う人もいるよーってだけだよ。とシンプルに教えるのでなくて、
さ、
普通だと思う努力をしなさいって、それが思いやりだよって、ちょっと変な教え方をするよね。」
可笑しいね、と微笑む顔は
これを口にした事を少し後悔しているように感じた
ストレートな想いとは伝えるのは怖いものだ
しかし貴仁は、それを幸福に受け止めた
なんて格好いい男をパートナーに持てたのかと。
この恋を誇りに思うのだった。
そして、そんな最高のパートナーへ告げるのだ
「じゃあ、俺達は俺達が当たり前として、積極的に子供達と触れ合っていかなきゃならないな。いいよ。お前が思うようでいい。俺は、もう、お前の横を歩けるならば、怖いことはないんだから。」
そう、告げる貴仁は、
龍希にも、おそらくは最高に格好の良い男に映った事だろう。
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