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K01 : 熱の入江 5
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「楓くんみたいな年頃の子と話す機会ってないから、新鮮だな」
「うん、俺も多田さんみたいな感じの人って初めてかも」
そう言って笑えば甘く優しい眼差しを注がれて、また心臓が無駄に跳ね上がる。
この人、一見すると淡白でストイックに見えるんだけど、何だろう。時々すごく艶っぽい視線を流してくる。
多分無意識なんだろうけど、それがすごくドキドキする。
多田さんぐらいの年齢の人となら、何人も遊んだことはある。
学校の先生、バイト先の店長、同級生のお兄さん。皆、一緒にいるのが楽しくて好きだったし、エッチも気持ち良かった。
でも多田さんは、その人たちと比べてもズバ抜けてカッコよくて、落ち着いてて、優しくて───何て言うか、もうその存在そのものがキラキラしてて、こうやって向かい合ってるだけでどうしようもないぐらいそわそわしてしまう。
そんなことを考えてたら、なんだか無性にいても立ってもいられないような感覚に襲われてきた。
ああ俺、多分本格的に酔ってる。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね!」
のぼせた頭を冷やしたくて、ガバッと立ち上がってそれだけを伝えてから店の奥に駆け込む。
トイレにしとくにはもったいないくらい和風のきれいな空間だった。
黒御影の丸いシンクに勢いよく水を流して、顔をバシャバシャ洗う。肌にあたる水が冷たくてちょっとは酔いが醒めた気はしたけど、胸の中に燻る何かは全然消えなかった。
両手をついて前のめりに鏡と睨めっこする。鏡の中の俺は、頬が火照ってて何だか夢見心地な顔をしてた。
どこかふわふわした気持ちを抱えたまま席に戻った俺を、多田さんが心配そうに迎えてくれる。
「楓くん、大丈夫?」
「あ、うん。なんか熱くて、顔洗ってただけ! 平気」
笑いながらそう言えば多田さんが表情を緩ませるから、その顔もすごくいいな、なんて思ってしまった。
そうなんだ。俺はもう、はっきりと自覚してしまってた。
多田さんを完全にレンアイ対象としてしか見られなくなってることに。
「そろそろ出ようか」
その言葉で、伝票がなくなってることに気づく。俺が席を外してる間に、精算を済ませてくれたんだ。
「多田さん、お金」
慌ててズボンの後ろポケットから財布を出そうとする俺を、多田さんは困ったような微笑みで制する。
「いいよ。楓くんに出させるわけにはいかないし」
それは全然いやみじゃない大人の立ち振る舞いで、つい素直に甘えてしまう。
「じゃ、今度は俺が出すね。だから、今日はごちそうさま」
そんなことを言ったのは、今だけで終わりたくないから。
俺が口走った言葉に多田さんは少しだけ何かを考えるように黙り込んで、おもむろに頷いた。
「そうだね。じゃあ、そうしよう」
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