アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
告白:変化
-
変わったことといえば、まだまだある。
『お仕事おちゅかれヽ(o´3`o)ノ』
『真ちゃん、今日何食べたい~?(⚫´ 3`)´ε`⚫)』
『オレはね~、お蕎麦の気分なのねんヽ(●´ε`●)ノ』
定時が近くなると必ず入っていた平助からのLINEは、昼休みに入るようになり、内容もその日の夕飯のメニューではなく、何が食べたいかを尋ねるものになった。
社内食堂で既に蕎麦を食べていた真一は、『うどん』と素っ気なく返す。
するとすぐにそれは既読となり、『蕎麦っ!』と返ってきた。
それに『そうめん』と返す。
「なんだよ横山、彼女からか?」
真一と向かい合って座っていた男は、スマホを弄る真一に話しかけてきた。
経理部の村田だ。
部署は違うが、同期入社であるというのと、意外と話が合うという理由から、食堂で出くわせばこうして一緒に昼食を取る仲だ。
身長も180センチ近くあり、ボクシングをやっていたこともあってか身体も引き締まり立端もある。顔も爽やか系で嫌みなく、仕事もかなり出来る、らしい。これで人当たりも良いのだから、モテないはずがない。しかし独身だ。そして良い奴だ。非の打ち所がない男、村田はうどんを食べていた。
スマホを弄る真一が気になるようで、たびたび真一を見る。
「お前、彼女いないとか言ってるけど、絶対いるだろ?」
こんな男でも他人の恋愛事情が気になるらしい。
真一はスマホを胸ポケットにいれると、村田を見ずに答えた。
「あー……まぁ、うん」
「まぁ、うん。って!なんだよそれ!」
「声でかいよ村田」
思っていたよりも反応の良い村田に、真一は制止の言葉を投げ掛ける。
村田は、あぁ悪いと、すぐに声のボリュームを下げた。
しかし興味はなくならないらしい。少しだけ身をのりだし、声を小さくして真一に尋ねてくる。
「いるのか?出来たのか?」
「出来たっていうか……居たっていうか」
「なんだよそれっ。居たなら言えよ」
「言えない理由があったんだよ。いいか、誰にも言うなよ」
村田がやたらめったら人に他人の話をする人間ではないことは知っているが、真一は釘をさした。ここで彼女がいるなどといった噂が広まってしまっては、だんだんと結婚はしないのかといった話にまで広がってしまうに決まっている。
結婚など出来ない。何よりも『彼女』ではない。面倒臭くなることは避けたい。
真一の口止めに、村田は「分かった分かった」と笑う。そして、「睨むなよ」と真一をいなした。
「長いのか?」
「まぁ、それなりに」
「今まで黙ってたのに、なんで今さら言う気になったんだ?」
「いろいろ、思うところがあったんだよ。最近な」
真一は最後の蕎麦をすする。
「あと、村田なら誰にも言わないだろうし」
「俺って案外、横山に信用されてるよな」
嬉しいよと、村田は笑う。
信用している。だってお前は良い奴だ。
しかしそう言いながら笑う村田はきっと、女性を想像しているのだろうなと真一は思った。
信用しているが、お前が想像している性別とは逆だとは、この場じゃなくても言えない。
「俺の他に誰か知ってたりする?」
「受付の……足立さん」
「えっ!足立さん!?なんで!?」
「足立さんの友達なんだよ。えーっと、……その、付き合ってる奴が」
「あー、そうなのかぁ。なるほどねぇ」
美奈子が知っていることに対して合点がいったのか、村田は頷きながら持ってきていた水を飲んだ。
そして何を考えているのか、暫く空間を見つめる。
会話が止まるが、真一は気にせず水を飲んだ。
腕時計を見れば、まだ休憩時間がある。しかしさっさと戻って終わらせたい仕事が頭に浮かんだ。
「……横山。あのさ?」
「ん?」
再び話しかけてきた村田に、真一は視線を向ける。
村田の顔付きは少しだけ真剣になっていた。
そして内緒話とでもいうかのように、声を小さくする。
なんだか、前にもこういうのがあったような気がするなと、真一の脳裏に過った。
「お前さ、足立さんと付き合ってたのか?」
「は?」
以前されたことがある質問とほとんど同じ内容に、真一はその時と同じ反応をした。
どうしてどいつもこいつも、美奈子の話題を出す時はこんな真剣な雰囲気を作るんだ。
美奈子はあんなに柔和だというのに。
「結構前になるけど、足立さんと一緒に出勤して、退勤してただろ?俺、てっきりお前と足立さん、付き合ってたのかと思ってたんだけど」
「あー、それは……」
平助から頼まれて、ストーカーに付きまとわれて困り果てていた美奈子の彼氏役を演じていた時のことだ。
もうかなり前のことになるが、覚えている奴もいたのだと、真一は村田の記憶力に驚く。
そしてここにも、美奈子のストーカー男同様に、自分達の演技に騙された奴がいたとは思わなかった。
「ただ相談にのってただけで、付き合ってはないよ」
「そうかそうか。でも、お前と足立さんって仲いいよな」
「それはまぁ、俺が足立さんの友達と付き合ってるってのも、あるしな」
真一の答えに、村田は納得したようだった。そうかそうか、と、何度か頷く。そしてどこかホッとしている様だった。
そんな村田を見ながら、真一はもしかしたら、村田は美奈子に気があるのかもしれないと思う。
村田から美奈子の話題が出たのは初めてに近かったが、交際関係を気にするぐらいなのだから、その読みはあながち間違っていないだろう。
やはり美奈子はモテる。確かに美奈子は良い女性だ。
美奈子の隣に、村田か。想像すると、確かにお似合いだった。
しかしやはり、村田ではなく平助の方がしっくりきてしまう。
そんなことを考えて、真一はその想像をかき消した。
代わりに、今日の夕飯はなんだろうか、と思考を変える。
蕎麦でもいいよと、平助に返せば良かったかもしれない。
定時近くになれば、夕飯のメニューが平助から送られてくるだろう。
それは相変わらず変わっていない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
17 / 41