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プロローグ:悲しき悪魔のおそ松兄さん
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sideチョロ松
おそ松兄さんが行方不明になって、一週間が過ぎた…。
――チョロ松
名前を呼ぶ声は、身勝手にも、僕を夜中の眠りから引き上げた。眠い目をなんとか開くと、そこには見馴れた悪戯な笑みがあった。
「なぁ?何か望みとかないの?何でも叶えてあげる☆その代わり、チョロ松の魂、頂戴」
目の前でニヤニヤしているのは、確かにおそ松兄さん…いやでも、角とか牙とか骨っぽい黒い翼とか、尖った尻尾とか、なんと言うか…悪魔だった。
「――おそ松兄さん?」
「誰?『おそ松兄さん』って?」
こくっと首を傾げている。
幼じみた仕草は、おそ松兄さんでしかなった。
「知―らない!『おそ松兄さん』なんて!ね?それより何か望んでよ?俺、チョロ松の魂欲しい☆」
「いやいや…。おそ松兄さんだよね?」
「だから!知らないって!」
「じゃぁ…どうして、僕の名前知ってるんだよ!?」
「それは…っ」
明らかな戸惑いの色。
ああ―本当に記憶が欠落しているんだ。
「兄さんっ」
僕はおそ松兄さんに抱きついた。
突然の事に、兄さんは少しびっくりしている。
「おそ松兄さん、大丈夫だよ。必ず助けるから。だから少しだけ待って」
「チョロ松――」
先程と少しだけ違うトーンで名前を呼ばれ、兄さんの顔を覗き込むと、兄さんの頬には一筋の涙の跡が出来上がっていた。
「チョロ松…俺…」
兄さんと僕の目が合わさる。
「おそ松兄さん…」
「俺、思い出したよ、全部」
――よかった。
と思ったのも束の間だった。
「チョロ松、魂、頂戴。」
「兄さん!?」
兄さんは記憶を取り戻して尚も、とんでもない事を言う。
「思い出したんだ。チョロ松の魂が欲しい理由」
「理由?」
兄さんは、ぐすんぐすん泣きながら話し出した。
「俺ね、チョロ松とずっと一緒にいたいの。でもこっちの世界に居たら、いつか離ればなれになる…。でも魔の世界なら、ずっと一緒に居られるんだ。だから、一緒に行こう」
「それで、兄さんは、悪魔に魂…いや、全部売っちゃったんだね」
兄さんが、こくっと頷くと、僕は溜め息を吐いた。
「どうしてもっと考えてくれないの?僕が愛したのは『松野おそ松』って『人間』なんだよ?」
「チョロ松―っ!」
「酷いよ。勝手に『おそ松兄さん』を殺しちゃって、僕を独りにしてさ」
僕は首から下げている十字架を取り出した。
悪魔は十字架に触れると死んでしまう…。
いつか教会の牧師さんから聞いたことがある。
「チョロ松!待っ―ぎゃあああああ!!!」
悪魔の断末魔が寝室に響き渡った。
他の兄弟達がぴくりともしないのが不思議だ。
「チョロ松…」
僕はすっかり衰弱した悪魔を抱いていた。
もう数分と保たないだろうに、しきりに僕の名前を呼んでくる。
その口に、口づけてやると、悪魔は悪魔とは思えない程に穏やか笑んで、そして、消えていった。
***
「おはよう。おそ松兄さん」
あの日から数年が経った。
当時ニートだった僕たちもさすがに自立を果たして、それぞれの生活を送っている。
おそ松兄さんは、未だ行方不明のまま。警察に捜索願いを出したけど、見つかる気配はない。
でも僕には、いつもおそ松兄さんが側に居てくれている気がして、こうしてことある毎に兄さんに話し掛けている。
「兄さん、今日はとても良い天気だよ」
――そうだな、チョロ松。
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