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リストラ
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浅黄は、フレッチャー社の仕事に満足していたわけではなかった。
高校卒業後、最初に就職した会社は1年もたたずに倒産してしまい、
その後、しばらくは定職に就かずにアルバイトでその日を暮らしていた。
彼が正社員になろうとしたのは、女手一つで育ててくれた母親が病気になり、
彼の行く末を心配した母親が、自分が生きているうちに再就職することを希望したためだ。
フレッチャー社に就職できたのは、たまたま、当時の採用担当者も母子家庭で育ち、
彼の境遇に同情したためだった。
仕事そのものは退屈だったが、正社員になれるならどこでもよかった。
採用が決まって、まもなく、母は亡くなった。
彼は古い木造の安アパートに一人で住んでいた。
時には、そこに同じ会社に勤める2歳年上の美咲が遊びに来た。
積極的な彼女に押し切られた感じで付き合い始めたが、
彼は単なる好意以上のものを彼女に感じていなかった。
会社が、自主退職者を募ることを発表した。
浅黄は、周りの人間が自分が辞めるのを期待しているのがわかった。
彼は独身で、重要な仕事もしていない。
彼らは急に浅黄の前で、「養わなければいけない家族」の話をしたり、
「若ければ、いくらでもやり直しができる」ということを言ったりした。
浅黄はやめるつもりはなかった。
彼は慈善家でも偽善者でもなかったからだ。
彼ひとりやめたぐらいで会社の経営が改善するとも思えなかった。
いつまでたっても、退職希望者が現れないので、木村はとうとう浅黄を社長室に呼び出した。
浅黄は社長以下、5人の重役の正面に座らされた。
「市川君、きみはいくだ?」
「22歳です」
「まだ、十分若い。何もこの会社にこだわることはない。
ここにいても大した仕事はない。
君のような未来のある若者がもったいない。
本当は、もっと別の仕事がしたいんだろ」
「今の仕事で満足しています」
彼らはそろってため息をついた。
彼らは相談の結果、浅黄がいかにこの会社に無用な存在か自覚させようとした。
彼らは何も言わなかったが、これには平社員も加わった。
浅黄は徹底的に無視され、仕事は奪われ、ただ、机に座っているだけになった。
美咲もいつのまにか、彼には近寄らなくなった。
綾倉氏は自宅でソファーにくつろぎ、お茶を飲みながら夕食後の時間を過ごしていた。
近くでは藤原が、明日の予定を確認していた。
藤原の電話が鳴った。相手の報告を聞くと、電話を切り、綾倉氏の方を向いた。
「浅黄は退職したそうです」
綾倉氏は満足そうにうなずいた。
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