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アサイラム
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浅黄は時計を持っていなかったし、部屋の電気はつけっぱなしだったので、
昼夜の区別もつかず、実際にはどれくらいかはわからなかったが、
何日も、彼らは浅黄の存在を忘れていたようで、誰も部屋を訪れなかった。
このまま、ここで飢え死にしていくのかと不安になってきたとき、
見覚えのある男が入ってきた。
三人組の一人ではなく、誰かは思い出せなかった。
「大分、ひどい目に合ってるようだね」
彼は笑顔を浮かべながら言った。
「そろそろ、何の用か言ってくれてもいいだろ」
「私たちは君にある仕事をしてもらいたいだけなんだ。
簡単に言えば、新宿にある<アサイラム>という店の店長になるってことだが、
一つ言っておかなければならないのは、そこはゲイの店だってことだ」
「俺はゲイじゃないし、店長なんて無理だ」
「ゲイかどうかなんてことはどうでもいい。
店長なんて、店にいて店の秩序を保っていればいいんだ。
それにこれは表向きの仕事だ。
君にはもっと重要な仕事がある」
<アサイラム>の客はほとんどが常連だが、その半分は客とは表向きで、
彼らこそ、店の経営を支えるセレブ向けの男娼たちだった。
男の言う「重要な仕事」とは、彼らのマネージメントだった。
「断る」
浅黄の返事に、男はそれほど気分を害した様子は見えなかった。
男はドアをたたいて合図を送った。
大男と注射男が入ってきて、大男は浅黄を押さえ、注射男は注射の準備を始めた。
「一晩、ゆっくり考えてみるんだな。早くこの部屋を出たいだろ」
男はそういうと部屋を出て行った。
浅黄はその晩、悪夢を立て続けに見た。
部屋中にミミズが這い回っている夢、公園を散歩していると絞殺死体が掘り出される夢、
大男に犯される夢。
目が覚めた時、全身に汗をかいて、体中が痛かった。
起き上がろうとすると、吐き気を催し、彼はトイレに駆け込んだ。
便器に倒れかかり嘔吐したが、たいしたものは出なかった。
部屋に戻ると昨日の男がベッドに座っていた。
「昨日はよく眠れたかい?」
「おかげざまで」
「君の考えが変わったかどうか聞きに来た」
「残念だったな。変わらない」
「断れると思ってるのかい?」
「ほかのやつに頼めよ」
「どうしても、君にやってもらいたいと思ってる方がいらっしゃるんだ」
浅黄は長いこと立っていられなかったので床に座った。
この男には、確かに以前会ったことがある。
「君が表裏両方の仕事で得る報酬はわずかだ。
それだけではおそらく生活できまい。
その点、君は少年たちの稼ぎの上澄みを取って、
というような良心の呵責を感じる必要がない。
君の衣食住、その他の費用は、
君をこの仕事につけたいと考えていらっしゃる方から支払われる。
君は必要なもの、欲しいものがあれば、その方に言えばいい。
彼はそのものか、あるいは、それを手に入れるのに必要なものを揃えてくださる。
君の願いはそれがどんなものであれ、ほとんどかなえてくださるだろう」
男は浅黄の反応を待った。
浅黄は男の言ったことを考えた。
ゲイの店と男娼組織を持っている男がいて、
その男が自分の生活費を出してくれるという。
つまり、そいつのホモの相手をしろと言うことだ。
「ますます、お断りだ」
男は立ち上がると、ドアを数回たたいた。
ドアは開き、大男と注射男が入ってきた。
「こんなことしたって、いつまでたっても答えは変わらない」
注射男が黙々と仕事を済ませるのを見ながら、浅黄は言った。
「どうかな。君がノーと言い続ける限り、君にはこれを楽しんでもらう。
今はまだ、1日1本だが、明日もそうとは保証できない。
君が完全な中毒になったら、ここから出してあげよう。
その時、君はここを出たいと言うかな?
明日また来る。よく考えておくんだな」
目が覚めると、ますます気分が悪くなっていた。
ふと見ると、天井から砂が細い滝のように流れ落ちていた。
ドアを見ると、ノブに人の顔が浮かび、
「ご一緒に飲み物はいかがですか?」と言った。
浅黄は再び目を閉じた。
天井から落ちる砂も、ノブに浮かぶ人の顔も、すべて幻覚だ
高校の友人が、ドラッグのやりすぎで廃人のようになって死んだのを思い出した。
頬を叩かれて起こされたときは、現実感を取り戻していた。
頬を叩いたのは、昨日の男だった。
「昨日の」と言えるのは、男が「明日また来る」と言ったからだ。
今日は初めから、例の二人を連れていた。
「気分はどうだい」
浅黄が答える前に、注射男が浅黄の左腕をつかんだ。
浅黄は右手で注射男を制止した。
「必要ない。薬物中毒にはなりたくないんだ」
「仕事を引き受けるってことかな」
男は浅黄がうなずくのを見て、満足げにほほ笑んだ。
その瞬間、浅黄は男をどこで見たのか思い出した。
綾倉氏の事務所にいた男だ。
藤原は、大男と注射男の二人に部屋を出るよう合図を送った。
二人が部屋を出ると、話を始めた。
「前にも言ったように、引き受けた以上、君の生活は保障される。
綾倉氏を覚えているかい?
君は彼の指示に従わなければならない。
それがどんなことでも、君が嫌だと思うことでもだ。
もちろん、彼は君にできないことをやれとは言わない」
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