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露顕
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ホテルの上層階へと移動する。しんと静まり返ったホールには、柔らかい光が窓から差し込んでいる。同じホテルなのに廊下の内装も違っている。飾られた絵や通路の花瓶が冷ややかに上から見下ろしている。
奏太とこの先に進むためには避けては通れない道。二人の未来へと続くはずの廊下を進む。少し毛足の長い敷物は足音さえも吸い込んでいく。静かすぎる廊下で自分の呼吸音がいやに大きく耳に触る。
奥まった部屋の前で立ち止まると、奏太はドアを軽くノックした。その部屋は明らかに奏太のいたところより隣のドアが遠い。部屋がそれだけ広いという事だ。
少し重量感のあるドアは、音も立てずに静かに開いた。そのドアの奥には画面の向こうに見た男が立っていた。
六十代と思われるその男性は凛としていて、現役を引退したとは思えない様だった。
俺に一瞥をくれると、何も聞かず理解したかのように軽く頷きソファを指さした。
「座りなさい。」
その言葉は俺に向けて発されたのか、奏太に向けてだったのか。
「明正さん、他には誰も?」
奏太の呼びかけに二人の距離の近さが垣間見えて、ちりちりと胸が痛む。俺の知らない時間がこの二人の間にあることは間違いない。
「秘書にはもう懲りたよ。」
奏太に向けられた優しい笑顔に二人の絆が見えたようで、部外者は俺だと暗に言われているように居たたまれなくなる。
「本当にごめんなさい。俺のせいですよね。全部。」
「いやいや、私が甘かった。お前の存在をまさか強請りの種に使われるとは思わなかった。まあ、裏切るような男を雇っていたのは自分の責任だ。ところで、そちらの魅力的な男性はどちらかな。紹介はしてもらえないのか。」
「あ、申し訳ありません。自己紹介が遅れました。私、木村瑞樹と申します。尾上さんとは高校の同級生です。」
「同級生・・・なるほど。権藤明正です。」
「はい、存じ上げております。一度お会いしていますよね。このホテルで五年ほど前ですが。」
「ほう。で、その同級生がなぜこんなところへ。」
「明正さん、そのくらいにしてください。ご存知でしょう。なぜ彼がここにいるのか。」
「つい、焼きもちを妬いてしまったかな。そうか、彼がそうか。」
「そう、大切な人です。瑞樹、明正さんは・・・・どう言えば良いのかな。つまり、俺は・・・17歳の時からずっとお世話になっている。」
お世話になっている。あの時のホテルの部屋に色濃く残っていた情事の後がまざまざと蘇ってくる。未だに記憶の中で褪せていないと知り自分の嫉妬深さに辟易とする。
「明正さんは、俺を泥沼から引き上げてくれた。あの時出会わなかったら俺は自分の母親に手をかけていたかもしれないんだ。」
「やめなさい。そんなことはないよ。お前はそんな子じゃない。まあ、私が若くて綺麗な男の子に熱をあげて、その事実を秘書に利用されただけの事だ。迷惑をかけたのはこちらであって決してお前じゃないよ。」
俺は本当にここにいて良いのか?居たいのか?口もはさめず黙ったまま二人の会話を聞いているしかない。
この話を聞いてしまえば、知らなかった過去には戻れない。
「・・・ここに居たくない?」
奏太の言葉にはっとする。俺は離さないと奏太と繋いでいた手を引いてしまった。
奏太は俺の手を見つめながら、哀しそうな顔をした。
「これ、俺の部屋の鍵。」
差し出されたカードキーを見て奏太に視線を戻す。表情は読み取れない。俺は・・・どうしたいんだ。ここに本当に居たいのか。権藤が口を開いた。
「逃げるのか。守れる強さが無いのなら今すぐ引き下がりなさい。私がもらい受けよう。ここに来たからにはそれなりの覚悟があるのかと思っていたが。まだまだ青い。」
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