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事実とは、
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シャワーを浴びてお風呂場から出ると、リビングのソファーで谷原がタバコを吸ってた。俺に気付いて視線だけを俺に向ける。だけど、俺はなんか恥ずかしくて、谷原と目を合わす事が出来なかった。風呂上がりだからって理由で誤魔化せてるかな…顔が赤いのは。
「…おまえさ」
「…なに」
「いや…やっぱなんでもない。風邪はどうなんだよ。」
「まぁ、ほとんど平気。」
「そうか。でも今日は休んだ方がいいんじゃないか?」
「いや、行くよ。バイトも休みたくないし。」
親は世間体を気にして高校に行く事を望んでいるから、本当はバイトを一日中していたくてもそうはいかない。高校に行かなきゃバイトにも行けない。
「…髪、拭いてやるよ」
「え?」
何を急にと思ったら、谷原は自分の足元を指差した。そこに座れって事か。俺は大人しく言われた場所に座ると、谷原は後ろからタオルで髪を拭いてくれた。
「なぁ、なんでおまえ、そんなにバイトしたがんの?」
「…金が欲しいからじゃん。」
「でも小遣いが欲しいってレベルじゃないだろ。」
結構真剣に谷原が言った。
「…ふふっ」
「あ?何がおかしい?」
「本当はさぁ…雅から聞いてるんでしょ。」
俺がそう言うと髪を拭いてた谷原の手が止まった。
前に谷原が呟いてた。「雅が言ってた通りだ」って。あれは俺が家庭内でどういう扱いなのか、俺がそれをどう思ってるのか、多分雅から聞いてたんだろうって後で思った。付き合っていたんだから、雅がうちの事を谷原に話していてもおかしくない。それでも谷原と俺には何の接点もなかったから、今までは何もして来なかった。けど、担任になってしまったから、ほっとけなくなった。そういう事なんだろう。
「…少しだけな。雅はあまり家族とかのそういう話はしなかった。けど、おまえの話はよくしてた。」
「…やっぱり俺は、雅にも同情されてるんだな…」
両親は俺を腫れ物みたいに扱ってる。
Ωなんて不憫で可哀想だけど、迷惑な子。
そう言ってるのを聞いた事があった。聞く前から感じていた事だったけど、はっきり聞いてしまうとやっぱり衝撃は違う。雅も俺を、可哀想だと思ってたのかな。
「違うだろ。雅は同情なんてしてなかった。家族として、兄弟としておまえを心配してただけだ。なんでも諦める癖があるって、言ってたぞ。」
「…まぁ、そうかな…望んでも手に入らない事の方が、多かったから…」
αが、Ωが、なんだって、1番嫌ってるのは俺なのに、俺が1番Ωである事を気にしてる。だけどΩだからしょうがないと諦めるのは、案外楽だった。
谷原はまた髪を拭く手を動かしながら、
「…うちに住まないか?」
って言った。
俺は見上げるように谷原を見ると、ばっちりと視線があった。なんか、色素の薄い茶色い目をしてるんだなって、初めて気づいた。
「なんで?俺はあんたに復讐しようとしてるのに、なんでそうなるの?それも…同情?」
「…ちげぇよ。同情なんかでいちいち生徒を家に呼んでたらキリがないだろ。」
「じゃあ、なんで?」
「それは…」
「俺は谷原の恩恵は受けないって言った。それは、あの事だけじゃない。俺は、誰の恩恵も受けるつもりはない。」
「恩恵とかそういうんじゃなくてな」
そう言ってちょっと苛立った顔をした谷原を見て、なんか少し嬉しかった。
「分かってるよ。でも、うん、ありがとう。いいんだ俺は、このままで。」
「だっておまえこのままじゃ…」
「いいんだ。」
お互い、往生際が悪いね。この話はもうしたくない。
だから俺は立ち上がって玄関に向かった。髪はそこそこ拭いてもらったし、持ってきたものも何もないから早くこのまま立ち去りたい。
「海斗」
そう呼ばれて腕を掴まれる。
「ねぇ、なんで雅と別れたの?」
「は?…今その話は関係ない」
「そうだね…でも、俺、不思議だよ。」
「何が」
「あんた…いい人なのにね。」
俺が小さく笑ってそう言ったら、谷原は目を見開いて驚いてた。口に咥えたままだったタバコが落ちそうになるのを慌てて持ち直してた。
美味しいご飯をもらって、看病してもらって…その後は発情期のお相手まで。好きでもないだろうに。αの血が騒いだとしたって、もし俺に子どもなんて出来てようものなら、後悔するのはどっちか目に見えてる。
谷原はいい人だ。
そんなのは雅が一度は選んだ人なんだから分かってる。
分かってたよ。
俺が自分の弱さに気付きたくなくて、谷原に復讐だなんだって言ってただけなんだ。
いい人を、困らせるつもりなんてないよ。
俺は腕を掴んでいた谷原の手を解いて再び玄関に向かう。靴はちゃんと綺麗に並べられてた。案外律儀というかなんというか…
取っ手に手をかけた時、後ろからその手を掴まれた。びっくりして振り返ったら、谷原が真剣な眼差しで俺を見ていて、俺は生唾を飲み込んだ。
「…な、」
「違う」
「え…」
「いい人なんかじゃない。」
「…なに…?」
「いい人なんかじゃない、だって俺は、雅と付き合ってない。」
「………は?」
なんだ、それ。
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