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逃げ道
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「…………………兄ちゃん、何かあったんか?」
待ち合いの片隅で、俺は見ず知らずの人に、心配される。
ホントに、救いようがない。
都合のいい話だが、ずっと親のいない生活をしていた俺は、隼斗や慶太よりも歳上の大人の存在に、ほんの少し気を緩めてしまった。
「…………す……………ぃませ……………っ」
馬鹿な奴。
ここまで落ちて、周りに迷惑かけて、何やってんだ。
毎日毎日、隼斗や涼の顔を思い出し、俺は何の一歩も踏み出せない。
俺は嗚咽する口を押さえ、身を屈めながら、身体を震わせた。
「まぁ………………何や、何があったかはわからんけど…………………泣けるって事は、苦しんでる証や。苦しんでるって事は、ちょっとでも良うなりたいって、思っている…………………違うか?」
「え…………………」
涙でぐしょぐしょな顔を上げると、関西人……………いや、イケてるお父さんは、俺を見て微笑んでいた。
「もう、既に逃げ道見つけとったら、苦しんだりなんかせえへんしな…………………」
逃げ道………………。
でも、今の俺は、大事な二人から逃げてるようなもんだ。
涼に首を絞められた時、俺は、怖かった。
自分を見失うくらい、俺を愛してくれる涼が、怖いって思った。
それからは、俺は何も言えなくなった。
「だけど……………簡単ではない……………です」
隼斗を好きだなんて、二度と口に出来ないんじゃないかと、怖さが過る。
「そら、簡単やない………………ホンマに苦しい事を解決するんはな……………時には、人かて傷付ける。世の中には、キレイ事だけで片付けられる事ばかりやないで」
「親父……………………」
やや表情を曇らせて、そんな事を口にしたお父さんを、息子が心配そうに見下ろす。
この親子にも、何かあるんだ……………。
そうだよな…………………苦しい道を歩いてるのは、俺だけじゃない。
明るそうに見えるこの親子も、待ち合いで歩いてる患者も、何もない楽な道を歩いている訳はない。
「…………………どうにもならん……………理屈やないねん………………道に逸れても、悪者になっても、全うしたい事もある………………俺は、あったから言うんやけど」
そう言って、お父さんはハニかんだ。
「逃げ道は、いつでも見つけられる。………………頑張り過ぎんでええけど、少し、顔上げようや。ウチのガキと変わらんような子が、泣いとんの見んのは、おっちゃんも辛いしなぁ…………………若いうちは、一杯笑うとる方がええで」
見上げると、息子も俺を見て目を細めてた。
笑うとる方が………………。
……………………笑顔。
そう言えば、もうずっと笑っていなかった。
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