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手出し無用
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あの後、おとなしく部屋に戻ってしまった事を、二都は後悔していた。
翌朝となってしまった今では、仕方のないことだけれど。本来なら、三守の香りに包まれて眠ることなんてできないんだろうけれど、なぜか熟睡してしまった。
時刻は朝7:30。休日にしては、少し起きるのが早いほうだろうか。
二都は静かにリビングのドアを開き、ソファで寝ているはずの三守の様子を見に行った。
ソファの上では、三守が毛布にくるまって寝息を立てていた。
あの後、錠剤を拾ったのだろう。一粒だけ、拾い忘れているのを見つけた。
掌に、子供の用に錠剤の瓶を握りしめている。二都に触れられないようにするためだろうか。
あれこれ考えても仕方ないし、と二都は三守を起こさずにキッチンへと向かった。
生活感があると言われればあるし、ないと言うならば、ない。
そんな感想のキッチンだった。ただし、冷蔵庫の中には食料が入っている。フルーツゼリー、カロリーメイト、ウィダー…。簡単な携行食ばかりだ。三守の発情期が来たのは三週間前。おそらく、三週間前にはもっと食料が冷蔵庫の中に入っていたはずだ。
持ち前の推理力を活かして、次に戸棚を開く。あった。しかし数は少なめ。もともと、三守はインスタントを嫌う傾向にある。このインスタントラーメンたちはおそらく、非常食扱いだろう。
勝手にキッチンをあさることに罪悪感を抱きつつも、二都はやめることはしなかった。
「あった。三守は飲まないのか」
戸棚の奥底に眠っていた、未開封のインスタントコーヒーを取り出す。
少し使い古されたコーヒーサーバーにセットすると、また探索を始める。缶詰。果物だ。賞味期限は…少し危ない。いつからのだ、内心ヒヤヒヤしながら、二都は探り続けた。
ソファの方から、瓶が落ちる音がした。
突然の音に、二都は肩を跳ねさせたが、すぐに冷静を取り戻した。
探索を中止し、ソファへと向かう。瓶を握っていた手がだらしなく毛布からはみ出ていた。
三守の手を毛布の中に戻し、瓶を拾う。ラベルも何もついていない、ただただ白い錠剤が入るだけ入れられた瓶。二都にとっては正体不明でも、三守にとっては大事な物だ。昨日の三守の顔が頭によぎり、瓶をローテーブルに置いた。こればかりは、三守に正体を聞かねばわかるまい。
コーヒーの良い香りが届いてきた。二都は再びキッチンへと戻り、食器棚からカップ二つを取り出す。食器も随分と数が少ない。これでは、毎食洗わなければ足りないのではないか。カップ二つを手にし、先ほどのローテーブルへと向かう。さて、三守は飲んでくれるだろうか。
「ん…」
目を軽くこすり、三守は上半身を起こした。
そんな三守に、二都は声をかける。
「まだ寝てていいぞ。ああ、寝室を使うか。よく眠れなかっただろう。すまない」
「…?ああ…二都か…。ん…いや、いい…、起きる」
両掌で顔を覆い、数秒間フリーズ。三守はそのあとすぐに顔を上げ、洗面所へ向かった。
朝が弱い三守は、高校のときも一限目から居眠りしていた気がする。昔の事を思い出しながら、その背中を見送った。
戻ってきた三守は完全に覚醒していた。同時に嫌そうな顔もしていた。
「二都、お前勝手にあさりやがったな」
「それは謝る。すまない。しかし、俺は朝はコーヒー派でな」
「…そんなものあったのか…」
「?どうかしたか」
「いや、なんでもない」
小さくつぶやいた三守の声が聞き取れず、二都は聞き返した。しかし、三守はすぐに顔をそらしてしまった。少し残念に思いつつ、二都はコーヒーを勧める。が、断られた。
冷蔵庫の中からウィダーを取り出し、ただ胃に入れる作業をする三守。ウィダーを出し切ろうと握りしめながら、瓶を拾った。
拾った後は、少し瓶を見つめ、二都を見つめ、キッチンへと戻っていく。
昨日の一件に関しての言及がない。二都は少しだけ、判定を待つ被疑者のような心持でいた。
キッチンで瓶を揺らす音がする。やはり、かなりの数を掌に出しているようだ。
となると、朝昼晩の三回、なおかつ一回15錠あたりの薬。
思い当たる薬がなく、医者に頼ろうかと二都は考えていた。
「おい。」
「…なんだ」
三守の呼びかけに、少し身構える。さあ、昨夜の弁明の時間だ。
「自殺じゃあないからな。言っておくが」
「…朝から自殺なんて感心しないな」
「…。相変わらず、興味ないのな。俺、今日はちょっと行かなきゃならないところがあるから、早めにここから出て行ってくれ。お前に合鍵なんて作られたらたまらん」
「作るわけないだろう。これでも警察だぞ」
「あっそ。11時には出て行けよ」
興味なさげに三守はつぶやいた。昨日のしおらしさはどこへ行ったのやら、今日はやけにそっけなかった。つまり、いつもの三守だ。
すこしだけ、二都は安心した。
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