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二人の距離
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この一週間、彼と一緒に過ごせなかった放課後をこの本に費やした
けれども、読みなれない文章は、なかなか頭に入ってこなくて、一週間たっても半分くらいしか読み込むことができなかった
そうしているうちにあっという間に、一週間たち、僕たちの日常は戻ってきた
「うわぁ...すっごい雨...」
放課後、今日は僕の家で遊ぼうと約束していたけれど、いざ帰るときになって外は土砂降りの雨になっていた
「ほんと...傘忘れてきちゃった...」
今は蒸し暑い梅雨の時期
天気予報は当てにならなくて今日は二人して傘を忘れてしまった
窓に当たっては流れる雨のしずくを見ながら由希也くんが言う
「これじゃ帰れないね?どうしよっか...」
決めていた予定がうまくいかないことに焦れながら僕も窓の外を眺める
「そうだね...しょうがないから図書室にいこっか...」
二人、肩を並べて廊下を歩く
梅雨の湿気のせいでYシャツがべたついて気分が滅入る
雨のせいか生徒たちも早々に帰宅したようで、いつもより人の声が少なく、廊下もシンとして薄暗く感じた
ガラッーー
図書室の扉を開ける
いつもと変わらず誰もいない
「相変わらず、貸し切りだね!」
由希也くんは笑った
いつものように同じ席に向かい、いつもと同じ席に座る
あぁ...
会いたかった...
変なの
毎日顔を見て、
おはようって言って、休み時間にはたわいもない会話をする
授業が終わるまで隣り同士で座っているのに
ただ放課後に一緒に入れなかっただけでこんな気持ちになる
僕は僕だけの由希也くんに会いたかったんだ
僕だけが知っている彼に会いたかった
二人で並んで座ると、急に由希也くんは僕に抱きついてきた
ぎゅーっと少し強めに抱きしめる
「わっ....!なに!?」
「えへへ...やっと二人きりになれたね」
そう言ってニィッと笑った
その顔を見てホッとする
由希也くんも同じように思ってくれてるんだよね...
「お母さんと...いっぱい話せた?」
恥ずかしい気持ちを隠すように僕は別の話題を振る
「んー?まぁね...進路のこととかあるし...」
「そ...そっかぁ..そうだよね..僕も考えないと...」
二人でいるのが毎日楽しくて、受験生だということを忘れてしまう
まだ1学期だからそこまでピリピリしてる人はいないけどなんかには2年生あたりから頑張っている人もいるくらいだ
「歩くんは?どうしてたの?」
「え!?え...っと」
迷ったあげく僕はカバンから本を取り出して彼に見せた
「これ...」
彼はその本を見て一瞬止まる
「あ...あの...由希也くんがあんまり好きじゃないって言ってたのわかってたんだけど...でも..どれかがいいのかわかんなくて...えっと...それで」
僕は言い訳みたいなことを並べる
別にそんな必要ないのに...
それでもなぜかそうしなければいけないような気がして...
「どうだった?」
彼は僕に問いかける
「えっと....まだ全然読み終わらなくて...」
そう言いながら僕はうつむいた
「なんか...難しくて...よくわかんなくてさ...読み終わって由希也くんに言いたかったんだけど...」
せっかく読み始めたけど全然由希也くんには追い付かない
自分がすごい子供な気がした
「でもすごいね...由希也くんは!難しいのにちゃんとしてさっ!」
そういうと彼は笑っていった
「あはは..そういうんじゃないよ?これはね、人に薦められて読むことになっただけ」
「そ...そうなの?」
意外な答えに僕は驚いて顔をあげる
彼は僕から本をとり、パラパラとめくりながら言った
「別に...嫌いってわけじゃないし...前の学校でね?読んでみればって言われたから.僕だってそんなに理解できてるかは....どうかな?」
「僕には...なんか恥とか...死にたくなる気持ちって....わかんない」
僕は率直な感想を言った
僕はまだ死んでしまいたくなるような
そんな気持ちはもったことはない
だって、学校は楽しいし、勉強は好きじゃないけど、何かを知って学んでいくのはうれしい
この本の中身のように大人になったら
死んでしまいたくなるようなそんな辛いことがあるのだろうか
今の僕には未来はキラキラとしたもののようにしか思えなくて
ちっとも想像がつかない
僕はきっと難しい顔をしていたみたいで彼は笑いながら言った
「そんなに難しいなら違うにすればいいじゃん!?」
彼の言うことはもっともだけどここまで来て結局読めませんでしたって....
それもどうなんだろう...なんて変なプライドが邪魔をする
「走れメロスとか....あるじゃん」
「それは教科書でやったもん!」
友達を人質において妹の結婚式にいき自分が処刑されるのわかっているのに必死に走って戻ってくる
授業では先生がいかに友情の大事さを説いていたのを覚えている
「じゃぁさ!君がメロスだったら僕のために戻ってきてくれる?」
「えっ!あ....あたりまえじゃん!」
僕は即答した
「そもそも、僕だったら真理なんかのために君を置いてったりしない!」
と付け加えた
彼はケラケラと「真理ちゃんがかわいそうだ」と笑った
彼が笑うからつられて僕も笑う
すると急に彼が真顔になり、静かにこう言った
「じゃぁ...僕が一緒に死んでくれる?って聞いたらどうする?」
え......?
思いもよらない質問に、一瞬動けなくなる
ふと彼が僕の頬に触れた指先が異様に冷たくて少しビクリと体が反応した
「......」
絶句する僕に向かって彼は吹き出した
「冗談だよ!!歩くん」
張り詰めた空気を一瞬で壊すように笑う彼に、僕はまたやられたっ!と熱くなった
「もぉ!びっくりしたー!急に変なこと言うから!」
彼を怒ってたたくようなそぶりを見せる
「ごめん!ごめん!だって本の話でしょ?」
人間失格の内容の中に心中するシーンがあって彼はそれをふざけて言ってきたのだった
一瞬でもドキリとした自分がバカみたいだ
そう思って彼に怒ったフリをつづける
すると彼は僕の肩にコテンと頭をもたれて、誰にともなしにつぶやいた
「ちぇー....今日は歩くんちに行けたらいっぱいチュウできると思ったのに!」
少しすねたように言う彼のふわふわした髪が僕の頬にあたる
鼻をくすぐるような彼の髪のにおいがする
「ね?ちょっとだけしてもいい?」
そう彼が言うから僕はまだ怒ってるフリをしていった
「だめ!しないからね!」
「えー...いいじゃん」
そう言いながらじゃれる彼に断固拒否の姿勢をもって彼の攻撃を交わす
僕たちが夢中になって話をしている間に、いつの間にか雨は上がり、窓から夕日が差し込んで図書室を一筋照らしていた
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