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風呂
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ほどかれた髪はさらりと白い肩を滑り、胸を隠す。そのせいで、中性的な雰囲気が増してしまう。細い肉体は筋肉質でもなく、かといってあばらが浮くほどの頼りなさでもない。そこまで観察して、風太ははっとした。見惚れている場合ではない。
「ほら、髪を洗ってやるからじっとしてろ。」
結局疲れが溜まっていた風太は、壮琉の中での常識である風呂は一緒に、を実行中だ。左手の傷の事もあり、慣れない動作で片手で体を洗うのを見て、風太が洗髪してやる事にした。というのも、聞けば菊ちゃんが体や髪を洗ってくれるそうで、壮琉の長髪も菊ちゃんの希望だとか。つくづく呆れる話だが、手の傷が治るまではと譲歩した。
「菊ちゃんってさ、何やってる人なんだ。雪ちゃんより親密なんだな。」
そして病んでいる。それは口にしないが、よくもそんな人とのヒモ生活に甘んじていられたもんだと不思議でならない。
「菊ちゃんは、アメリカに居た時は大学に行ってたけど卒業して日本に来たんだ。今は…何にもしてない。たまに勉強はしてる。」
「えーと…、それでどうやって生活するんだ。収入ないんじゃ壮琉を養えないだろ。」
泡に包まれた髪は長くて、風太には洗いにくい。女性の洗髪などの経験もないし、自ら長髪にした事もない為、絡みつく髪に四苦八苦している。
「?お金はたくさんあるから、雪ちゃんが管理してるって。」
「なるほど、仕事しなくてもいいくらいの金持ちか…。泡を流すぞ。」
納得した風太は、シャワーを手に取り頭の天辺から流した。壮琉の話を整理すれば、つまり菊ちゃんが金持ちの子で、その身の回りの世話をする執事だか何だかが雪ちゃんだろうか。ヒモ生活の片鱗が垣間見えた。
「ねえ、風太。二人は窮屈だね。」
「…どこかの金持ち宅と違って、浴槽のサイズが一人用なんだ。」
「そっかー。」
風太は縮めた足の間に入り込んでくる壮琉にげんなりした。ビニール袋でカバーした左手をお湯につけないように気を付けているのは結構だが、この素肌同士の密着率の高さ。なぜ壮琉は楽しそうなのか…。
「…やっぱり明日は別々に入ろう。」
「どうして?」
「逆に、この状況でどうして平気なんだ。」
「風太と一緒に入るの好き。」
はぁー…、ため息しか出ない。風太は浴槽に浮かぶミルクティー色の髪が肌を撫でて来るのをすくい、さすがヒモになれる男は違う、とその透き通る様な見事なデコルテにかけた。
バシッと張られた頬から衝撃が伝わり、細縁のフレームがずれる。打たれた頬には手も添えず、そっと眼鏡の位置を直した。
「何故、何の進展もない?ちゃんと人は雇っているんだろう。人数をもっと増やせ!」
「申し訳ございません。早急に対応致します。」
癇に障らぬように正しい角度で腰を折り、頭を下げる。主人の癇癪が強い傾向にあるのは、若くして財力があり、天才的な頭脳を持ち、儘ならない事など無いと他人には思わせる生活の中で、彼自身にとって不足していると強く感じているものがあるからだ。しかも、今はその不足を補っていた筈の存在が側に居ない。
「…お前は内心、さぞ溜飲を下げているだろう。」
「まさか!その様な事は考えていません。」
思わず下げていた頭を上げる、本心からそう思った事など無いと言えた。寧ろ、そう主人に思わせてしまう原因が自らにある事を恥じた。
「まあいい。秋吉、もう退がれ。」
「はい。」
言い分を聴く気など、主人には無いだろう。そして秋吉もまた、語るべき話を言えずにいる。二人の関係は、ずっと平行線を辿っていた。
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