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「本当の名前…って、」
壮琉が息を飲む。風太にとってこれは賭けだ。壮琉を名乗る男がここでシラを切れば、今後二度と会う事はないだろう。従兄弟でもない、何の面識もない見知らぬ成人男性を養う必要性を感じないし、いくら好きでも嘘を土台にしたこの関係を続けられない。ここまで至らなければ、直ぐに核心を突くような発言はしなかっただろう、自分を誤魔化しながらこの状況を丸ごと愉しむ余裕は風太にはない。
身動ぎした壮琉が風太の上から退き、ずるりと穴から抜けた。そのまま、Tシャツ一枚でちょこんと正座する。風太もつられて身を起こし、取り敢えず既にでろでろのタオルで腹と尻を拭う。それから、正面にそろそろとゆっくり胡座をかいた。壮琉はそれを待ち、覚悟を決めたのか強張った面持ちで、おずおずと告げる。
「空露…樹雨。」
「うつろ、きさめ?…えっと、それはどんな字なんだ。」
「空と結露の露、樹木の樹に空から降る雨。」
「空…露、樹…雨?」
風太がラグの上へ指で文字を書く。それを見ながら、壮琉改め、樹雨が頷く。
「へえ…樹雨かあ。空露樹雨…うーん…全然記憶にない。どういう知り合いなんだ、俺ら。」
「昔、風太が命を助けてくれたんだ。俺はその時名乗ってないけど、風太の名前を一方的に知ってて、ずっと、ずっと会いたくて…。でも俺の事を正直に話しても側に居れないと思った。あの交差点で見付けた時、風太が勘違いして壮琉の名前を呼んだから、思わずうんって言っちゃった。嘘をついて、本当にごめんなさい。」
しっかり頭を下げ、間を置き、ようやく上げた顔は今にも泣きそうで、不安気に瞳が揺れている。しかし風太は腕を組み、考え事の最中だった。
どうやら樹雨は壮琉を知っていて、十円玉の事も彼から教えて貰ったんだろう。それならこれまでの会話も納得がいく。しかし問題は今の発言… 風太は記憶を辿ってみたが、人命を助ける様な場面に遭遇した事は一度もない。
「あの、風太。俺は…もうここに居たら駄目なんでしょ?」
問い掛けは小さな声。それにハッとして、いいや、と首を振る。
「名前を教えてくれたら許すって言ったろ。でも条件はある。前にも言った通り、ここに住むならアルバイトでも何でもいいから仕事をする事。言っとくけど、ヒモは駄目だから。」
ぱあっと樹雨の顔が輝く。ぶん、ぶん、と首を縦に振り了承する。
「それからさー、これはちょっと申し訳ないんだけど、樹雨の言う命の恩人は俺じゃないと思う。なんか、ごめんな。」
今度は風太が謝る。その言葉に樹雨が慌てて身を乗り出した。
「ううん!風太だよ。本当に、風太だから。」
「うーん…んー…、思い出せん。」
腕組みし、記憶を再び探ったところで何も出て来ない。
「いつか、きっと分かるよ。俺はアルバイトする。だから、ここに居てもいいでしょ。」
樹雨が風太の肩へ手を掛けて伸び上がる、するりと腕を首の後ろへ回した。
ああ…もう、と風太は目蓋を少し落とす。唇への柔らかな感触を期待して、頬がにやけてしまうのを引き締める。
「いいけど。」
なるべく、そっけなく応える。
「良かったー、風太ありがとう!」
ぺろっ。頬を舐められて、がくっとなる。
「これじゃなくて…、」
「うん、キスする?」
「うん。」
ちゅ。柔らかく、しっとりと重なり合う。互いの舌を堪能し離れる。
「よし。シャワー行くか、」
よいせ、と立ち上がる風太の隣で樹雨がくんくんと風太の尻へ鼻を近付ける。
「ちょ、止めろ。」
「ふふ、風太から俺の匂いがする。嬉しい!しばらく匂いが残るといいなー。」
「あー……もう変態め。念入りに洗おう。」
「駄目!またマーキングしないといけなくなるよ。」
「いや、それは勘弁してくれ。」
青ざめた風太が両手の平を樹雨に向け、NOと首を振る。本日二度目のアレの受け入れなど御免被りたい。
「じゃあ、俺が丁度いい加減で洗ってあげるね。」
「何だよ、丁度いい加減って…。」
「えー?俺の匂いを残しつつ、清潔にって事でしょ。」
「はあ、もう勝手にしろ。」
「やった!」
げっそりしてる風太の手を引き、にこにこと樹雨が笑う。この後、シャワーの時に再び中を探られて悲鳴を上げる事になるが、この時の風太はそれを知る由もなかった。
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