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香水
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菊嘉の要望を受けて二日後の朝、アルバーニは宇野風太の身辺調査の結果を渡しにスイートルームへ向かった。ノックをすれば案の定、菊嘉が顔を出す。
『おはようございます、ボス。今日は間違いなく、出社されるんでしょうね。研究チームからも催促の言葉を貰ってますよ。日曜日に押し掛けて、休日返上で接待してくれた社長と副社長も気の毒でしたしねえ。誰かさんのワガママに付き合う周りの事も考えて下さい。』
『…ああ、』
嫌味を受け流し、上の空の返事。差し出される封筒を受け取ったが、明らかに気持ちは室内に居るであろうもう一人を気にしている。アルバーニは、ふうっと息を吐くと肩を竦めた。
『セツの体調は?一度倒れたと聞きましたが、そんなにべったりくっ付いて居なくとも、自分の身の回りの事くらい自分で出来るでしょう。彼は何て言ってるんです。仕事を放ってでも側に居てくれないと嫌だと、引き留められてるんですか?私の知る限り、その様な事は言いそうに思えませんが。』
自覚があるが過干渉を揶揄する言葉に、顔を顰める。確かにアルバーニの言う通りで、食欲のない秋吉を心配するあまりに、昨日も出社を取り止め一日中ホテルに二人で居た。秋吉は出社するべきだと言っていたが、菊嘉は気乗りしなかったのだ。
『大丈夫だ、今日は行く。』
『そうして下さい。そろそろ時間です。タクシーを呼びますので、早く支度を。』
一応は出社のつもりでいたのだろう、シャツとズボンを着用した菊嘉を部屋へ促し、アルバーニも続いて中へ入る。カーテンの引かれた薄暗い室内、秋吉の姿は見えないがバスルームからシャワーの音が微かに聴こえた。
『セツも同行を?』
『…いいや、』
『そうですか、』
菊嘉がバスルームへ行くのを確認し、アルバーニはホテルのフロントへ電話をかけて、タクシーを呼んで貰う。受話器を置く頃には、菊嘉を追ってバスローブを着た秋吉が濡れた髪のまま出て来た。
「私も行かせて貰えませんか、」
「駄目だ。ここに居ろ。」
「…はい。」
一方的に告げる言葉に、静かに言葉を返す姿が儚い。アルバーニは大股で二人に近寄った。
「セツ、倒れたんだって?とても心配したよ。昨日は見舞いを断られてね、会いに行けなかったから。」
菊嘉との間に割り込み、秋吉へにっこりと微笑む。昨日は二日連続で出社を取り止めると言い出した菊嘉へ粘り、ようやく秋吉の体調が優れない事を聞き出したのだ。
「ルーカ…、」
「シャワーのおかげかな、顔色はいつもと変わりなく見えるけど。濡れた髪の貴方も素敵だ。ああ、眼鏡を掛けていない姿は初めて見たよ。その瞳に吸い込まれそうだ。」
長身を少し屈め、赤い紅茶色の瞳を覗き込む。その角度は、まるでキスでもしそうな程に近く、わざとなのか菊嘉の嫉妬心を煽る。
「近寄るな、アルバーニ。」
低い声は怒気を孕んでいる。秋吉はそっと一歩、体を退いた。ふっ、と口角を上げてアルバーニが唇だけ笑みを模る。
「失礼、」
上体を戻すその青い瞳は、冷えた色を湛えている。彼の愛用する香水が、甘酸っぱいリンゴと爽やかなシトラスの香りを秋吉へ届けた。
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