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Killed:Ⅰ
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それは、致死量の愛ですか?
*
「初めまして、お話があり訪問させて頂きました。喰種対策局特等捜査官 西彼杵希偲です」
「【AXL two】代表の森川智之です。足を運んでいただきありがとうございます」
「早速ですが、月山家の喰種発覚はお耳に入っていると思われます。そこで、この度芸能界に関わる全ての方のRc値の検査をさせていただくことになりました。そのため、こちらに所属している方々も検査対象になります」
【喰種】
食性が人間のみに限定された肉食の亜人種。
反社会的な食性から公的に駆逐対象とされており、専門の行政機関(CCG 喰種対策局)が設立されている。
通常時は人間との外見的な差異が無く、条件付きで交配も可能であるなど限りなく人間に近い種。
その反面、身体能力は極めて高く数メートルを跳躍する脚力や素手で人体を貫く膂力を持ち、個体差はあるが成体ではヒトの4 - 7倍の筋力があるとされる。
程度の軽い擦過傷や切傷であれば一瞬、骨折でも一晩程度で治癒する回復能力を有し、また銃弾や刃物などの一般武器では傷一つ付かないほど耐久性にも優れている。
感覚器官も非常に鋭く、遠方から近づく人物の体臭を嗅ぎ分けられ、雑踏の中から足音を聞き分けることもできる。
つい先日大企業である月山グループ、傘下である各グループのほとんどが喰種と発覚した。そのため、現在CCGはいたる所でRc値の検査を行っている。
「森川さん、遅くなってすみません。仕事が押して.....」
「潤、こちらは喰種対策局からお越しの西彼杵さんだ」
「福山潤さんですね。喰種対策局の西彼杵です」
この時、既に始まっていたのだ。崩壊の始まりと平穏の終わりが。そして、この目の前にいる冷たい目をした彼女とこんなにも時間を共有することになるとは誰しもが思ってなかっただろう。
「現在、こちらの【AXL two】、【青三(あおみ)プロダクション】だけが未検査対象となっております。新人、中堅、ベテラン関係なく検査させていただきます。もちろんお二方も例外ではありません。明日、CCG本部へお連れしますのでそちらでRc検査ゲートを通過していただいた後血液検査させていただきます」
西彼杵は淡々と説明をすると、書類を数枚テーブルの上に森川と福山の方へ向けて並べていく。そこには、検査への危険性がないという証明書や今回の計画実施にあたる説明書などがあり同意書といった部分も記載されている。
「こちらは検査同意書、本部への同行同意書です。お二方含め所属している方全員のサインをお願いします。もちろん、スタッフや事務局員も全員です」
「了解しました」
「喰種を逃がすなどはいいですが、その際隠匿行為として処罰になりますので。では、明日夕方17時に伺わせていただきます」
立ち上がり一礼すると西彼杵は至って真面目な顔をして部屋を出て行った。
*
「潤たちのとこも来たんだって?」
「西彼杵さんっていう特等捜査官でしたよ」
「うちも同じ人だわ」
あのあと、森川と手分けして書類作業をこなし行きつけの個室で先輩である神谷、同い年の小野や立花らと呑み始めた。
最近フリーへと転身した小野のところに検査の連絡は一切来ておらずRc値検査など噂だと思っていたらしい。
「フリーのとこにはどこも連絡ないっすよ?後回しってことなんかな」
片っ端からビールやら肉、野菜など食べ倒す小野に皆見ているだけで胃もたれをおこしそうになっていた。
「こんだけ食事してたら小野くんが喰種ってことはないね。見てるだけでお腹いっぱいだわ」
「神谷さんに同意。同い年の食い方とは思えん。お前の胃一回検査してもらえば?」
「みんなひどい!」
このとき、誰も思わなかった。このとき既に異種が混じっていることを。そして、辿るべき人生が少しずつ変わっていっていることも。
*
あれから、二週間が経った。今日は検査結果の出る日。本来人間の平均Rc値は100~500で喰種は1000を超えるらしい。
これらは全て書類に記載されていた。今日例の特等捜査官から届いた書類に。
「潤、全て目を通したな」
「ええ。彼らも呼んでおきました」
時間通りにノックが鳴り響いた。森川が入室の許可を伝えると入ってきたのは.....
「森川さん、どうかしたんですか?」
「あれ、潤もいるじゃん」
【日野】と【立花】
森川さんに頼まれて呼んだのは二人だけ。『喰種』である二人だけ。他には誰も呼んでいない。
森川は日野と立花を自分と福山の前へと座らせた。
「日野、立花。さっき、Rc値検査の結果が届いた。あと、三時間後には捜査官が来るだろう。『喰種』であるお前たち二人を捕まえるために」
森川は至って真面目に話をする。立花と日野は驚いた顔をして森川を見た。森川は二人に書類を差し出す。
二人の握る拳が震える。そして、立ち上がる福山は何も言わない。
「まあ、座れ。いや、もう事務所を出た方がいいか」
「森川さん、何言って.....」
「今日、俺と潤以外は事務所に出入りしていない。この事務所の監視カメラは起動していなかった。そうだろう?潤」
「はい、森川さん。俺と森川さんしかいません」
初めて顔を上げて話した潤は少し悲しそうに笑顔を浮かべていた。日野と立花は立ち上がるとすぐに部屋を出た。
福山は森川の前に座って困ったように笑う。
「ごめんな、潤。お前にも罪着せたな」
「いえ、逆にありがとうございます。この恩は一生かけて.....」
「ばーか、俺の弟同然だからな。あいつらも、お前も」
そう言って笑った森川は福山とともに喰種捜査官を待った。
*
「.....え?!」
福山に言われたほかの仲間との合流ポイントには福山以外のDABAメンバーと、それから三浦祥朗と安元洋貴がいた。
「やっぱ、たちと日野もだったか」
「青三は神谷さんと小野坂さんが協力してくれて.....」
ここから、俺たちの歯車は少しずつ加速していった。
*
「あー、俺だけ仲間外れだなー」
そう言って笑う福山は時計を眺めながら思いを吐き出す。もちろん、同い年の声優はまだいる。だけど、あれほどの仲良くなることは二度とないだろう。
喰種になりたいとは思わないがそれでも一人だけ疎外感があり、きっともうあの頃のように一緒にいれないことには悲しむ他ない。
「潤、お前はもう帰っていい.....」
「俺も人間ですから」
福山は凛々しい顔をしてドヤ顔すると部屋にノックの音が響いた。ここからは一般人の森川智之と福山潤ではない。役者の森川と福山として.....
「失礼します。喰種対策局の西彼杵です」
「お久しぶりです」
「立花さんと日野さんは来られましたか?」
「来てませんよ」
福山はソファーの上で三角座りをしている。無駄な会話はしない。相手に情報を与えない。それが今までの役者として多数の人間を演じてきた経験の末だ。
「そうですか。今から、青三プロダクションの方にも行かないといけませんので後ほど連絡させていただきます」
そう言って彼女は携帯で時間を確認すると一礼して背を向けた。今日も一人で仕事をこなしているようだ。
彼女が部屋を出ていき扉が閉まると肩の力を抜いた。
「ひと段落ですか?」
「潤、お前以外のDABAのメンバーはみんな喰種だと思った方がいい」
突きつけられた言葉はとても重かった。嘘だと思いたかったし、彼らが喰種だと疑わしいことは無かった。
食事にも出かけたし、数日遠方へ宿泊したこともあった。
「.....嘘ですよね?」
「神谷から菅沼と三浦が喰種だったと連絡がきた。そっちに行ってないか.....と。」
逃走補助は喰種対策法で重罪に当たる。最悪の場合死刑、軽くても無期懲役。一生牢獄の中だろう。
だけど、そんなことより10年以上共にした仲間たちが容易く殺されることの方がずっと辛い。きっと、罰せられなくても自分を一生許せない。
「神谷さんは二人をCCGに送るつもりなんですかね」
「どうだろうな」
そんな会話をしていると後輩である下野から電話がかかってきた。森川にも伝えその場で応答する。
「もしもし」
『福山さん、そっちに間島さんと達央来てない?』
「来てないけど」
森川の予想はいよいよ的中しそうだ。残るは小野と近藤、安元といったところだ。
『二人とも連絡取れなくなったんです』
「.....喰種だったのか?」
『はい』
下野との電話を切ると色んな知人から連絡が来ていた。どこもかしこも誰が喰種だったとか、誰か喰種じゃなかったのかとか。気分が悪くて携帯を伏せた。
「失礼する。喰種対策局の真戸暁だ。西彼杵特等から指令され森川智之、福山潤。あなた方二人を本部へお連れする」
*
神様はどうにも優しくない
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