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椎名は話を聞きながらその姿に昔の彼を重ね合わせていた
あの頃の彼は年齢よりも落ち着いていて、こんな風に感情的に話したりしたことなどなかった
だけど感情のコントロールがうまくできない事を彼自身も気づいていたんだな
それをどうにもできなくて苦しんでいたんだ
どうして僕はあのころもっと彼の話を聞いてあげられなかったんだろう
患者という立場からから知り合いになって友達になって親友になって...そうやってゆっくり彼と向き合えればいいと思っていた
だけどあの頃の彼は冷静で落ち着いて見せているだけでそんな余裕なんてなかったんだ
どうしてほんの少しでも彼の変化に気づいて声をかけてあげられなかったんだろう
そうしたら彼も少年もこんな風にはならなかったのに
「気づいてあげられなかったこと...本当にごめんね」
椎名がそう声をかけると彼は不思議そうな顔で見つめ返してきた
「...なに?」
「あの頃もっとちゃんと君の話を聞けばよかった、気づいてあげればよかった、僕は医者失格だ」
人を導いていく立場でありながらいったい何をしていたんだろうと自分の無力さに呆れてしまう
椎名は思わず前髪をぐしゃぐしゃにしてしまった
すると少し落ち着きを取り戻した彼がポツポツと話し始める
「それはちがう...と思う、先生には感謝してる」
「え?」
「ユウのケガがひどくて、どうしようって...真っ先に先生の顔が浮かんだ」
そう言いながら彼は伏せていた顔をあげた
「先生はいい人だから...きっとユウの事を聞いてもすぐに引き離したりしないと思った、話を聞いてくれるって思ってた」
そしてふっと笑うと哀しげな目を椎名に向ける
「そう思うなら、ユウを見つけた時に言えば良かったんだよね...そしたらきっと全部ちがったんだよね?
俺も、ユウも...」
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