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どうしてあの時声をかけてくれなかったの?
そしたらきっと何か力になれたはずなのに...
椎名は喉まで出かかった言葉を飲み込んで唇を噛んだ
それを言うのは簡単で、けれど言ってしまえば彼をこの場で責めることになるだろう
彼の気持ちは痛いほど伝わってくるからだ
彼が必死で探していた宝物を誰かに知られてしまえば傍に置いておくことなどできなかっただろう
あの頃彼は未成年で、保護した少年と生活することは誰にも認めてもらえない
彼は見つけた宝物を壊れ物のように手のひらに包んで大事にしていた
それがいつしか自分でも気づかぬうちに包んだ手の平を強く握りしめてしまっていた
”離れたくなかったから”
愛し方を間違えただけ、愛し方を知らなかっただけだ
僕にできることはなんだろう...
その手のひらは握り潰してしまうためじゃなくて大事なものに寄り添うためであると教えてあげたい
君の手はユウくんと手をつなぐためにあるもので、決して殴るためのものじゃない
閉じ込めるのではなくその手をひいて、いろんなものを見せてあげるためにあるのだということを
「君はどうしたい?これから...」
椎名は彼に問いかける
本来ならそんなことは聞く必要もなく、二人を引き離し少年を保護すべきものである
そうすれば少年には安全が保障されるだろう
だけど彼は一体どうなる...?
罪にも問われるだろうけれど最も心配なのは心の方だ
少年には彼しかいないけれど、彼にもまた少年しかいないのだ
それが分かっているのに引き離すことなんてできない
椎名はどうしても彼を見ていると出会った頃を思い出してしまう
繊細そうな瞳を揺らしながら素直に話をしてくれていたあの頃の彼を
非常識なのは分かっている
二人のためにはならないかもしれない
僕は仮にも精神科医を名乗っているのに失格だ...けれどそれでもいいだろう
椎名は意志を固めるようにうなづいてもう一度彼に問いかけた
「君はこれからどうしたい?どうしたらいいと思う?」
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