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「俺は...」
何度も言葉につまり止まってしまう彼の肩に手を添えてゆっくり時間をかけて答えを促す
これからどうしたいのか...
それを彼が言えないと始まらないし、それを本気で願ってくれないと動くことができない
言いかけては口をつぐむ彼に向って椎名は語りかけた
「久しぶりに君が連絡をくれて会ったとき、僕が言ったこと覚えてる?」
「...え?」
彼は眉をひそめて顔を上げる
「あの時も君は下を向いたままだった...話してくれないと何もしてあげられないよって言ったんだよ」
診察に来なくなってから、彼はどうしているんだろうと心の隅で思っていた
連絡先は分かっているがしようがない
無理強いして来させるわけには行かない、椎名の分野はそういうところなのだから
だから便りがないのは元気でやっている証拠だとそう言い聞かせて過ごしていた
きっと大丈夫...そして願わくば彼にとって大事な人が傍にいますようにと思っていた
...しかし久しぶりに会った彼は以前より冷たい目で椎名を待っていた
「助けてほしかったから頼ってくれたんだよね?過去の話を打ち明けてくれたのも今助けてほしいんじゃないの?このままじゃダメだって...変わりたいって思ってるんじゃないの?」
すると彼の真っ黒な瞳が潤みだし、その唇を震えさせた
「俺は...」
全部話してくれたらそれでいい
それが正しくないなんて誰にも言わせない
「俺は...ユウと一緒にいたい」
彼の黒目が空をさまよいながら、やっと探し物が見つかったようにはっきりと答えた
「ユウとこのままがいい...だけど...」
「だけど?」
「ユウを傷つけたくないのに...やめられない自分が怖いんだ」
泣かせたくないのに傷つけて、抱きしめたいのに殴ってしまう
やめたくてやめられなくて...その焦りがまた悪循環を生んでしまう
「そうか...不安なんだね」
椎名は思わず呟いた
彼はその言葉を聞いて不思議そう顔をする
自分にはそんな言葉が不釣り合いだと思ったからだ
「不安?」
椎名は肩に添えていた手を今度は彼の手の上にのせて包み込むように握った
「何が怖いの?君は頭がいいからね、本当はもう気づいているんじゃないかな」
椎名に言われた彼は少し考えて頭の中を巡らせる
俺が怖いと思うこと...
そんなこと考えたことなかった...ユウが俺を怖がるのなら何度となく見てきたんだけどな
けれど椎名に言われて考え出した彼は一つの答えを導き出した
それはずっと気づきたくなくて考えないようにしていたこと
「怖い...うん、怖い。俺」
独り言のように言いながら彼は何度もうなづいた
「全部吐き出して?僕は絶対君を見捨てたりはしない」
添えられた椎名の手は彼にすべてを吐き出す勇気をくれる
「ユウに嫌われること...いろんな物を見せてあげたいけど、本当の事が分かったらきっとユウは俺から離れていく」
そして最後に椎名の目をジッと見つめて言った
「ユウが先生を好きになるのが怖い」
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