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彼が皿に盛って運んできたものは大きくて黄色い楕円形のものだった
「オムライスっていうんだよ」
少年は今日も初めて見る食べ物に興味津々だ
彼は少年を膝に乗せるとその手を取って何かを一緒に掴ませた
「これで上に絵を書くの」
彼が少年と握っているのはケチャップでオムライスの上に赤い点を落としていく
「ほら!できた」
それは簡単な点が二つと一本の線で描かれたニコちゃんマーク
「あー...でも失敗しちゃったな」
彼がそう言うのもオムライスの上に書かれたニコちゃんマークは口が真一文字で無表情...というよりなんだか怒っているような顔だった
いつも無表情で怒ってばかり...まるで自分のようだと彼は思う
「俺の方にも書いてよ」
今度は手を添えるだけで少年に任せてみると、オムライスの上には口角が上がった満面の笑みのニコちゃんマークが出来上がった
「ユウ、上手だね!すごいなぁ」
彼が褒めると少年は描かれたニコちゃんマークと同じように笑った
「上手に書けたからこっちを食べようね」といって食べさせようとすると急に少年が声を出した
「うー...」
何かと思うと失敗した方のオムライスを指差してしきりに何かを訴える
「なぁに?こっちがいいの?」
「ぁぅ...うん...うぅ...」
まるで返事をするようにコクコクと何度も頷くから仕方なく失敗作のオムライスをスプーンに掬って食べさせてみた
すると嬉しそうに目を細めてすぐに飲み込んでパカッと大きく次を強請ってくる
「おいしい?」
「...?いぃー?」
”おいしい”なんて言葉は言えるはずなくて...だけど顔を見ればそれが気に入ってくれたかどうかは良く分かった
「変なの、上手に描けた方を食べればいいのに」
彼は首をかしげながら少年に強請られるだけオムライスを口に運んでいく
なんでわざわざこっちがいいんだろう...そう思ったけれどそれでもいいかと彼は思う
怒り顔の俺にそっくりだけどユウが食べれば少しは笑顔になるかもしれない
ユウはいつもニコニコしていて描いたマークそっくりで...俺がそれを食べれば少しだけでもユウみたいに笑うことができるかもしれない
...できたらいいなと思うから
食べ終わると少年の口の端にケチャップがついているのを見つけて彼はそれを舌先で舐め取った
「明日は何を食べようかなぁ」
そろそろ冷蔵庫の中身も少なくなってきていた
だから今日は残りもので適当にオムライスにしたのだけれど、これぐらいでも少年は驚くほど喜んでくれるから彼も食事を作るのが楽しくなってくる
まだ知らないものがありすぎてリクエストなんかできはしないけどそのうちあれが食べたいと言ってくれたら喜んで作るだろう
おいしいと言ってくれたらどんな手の込んだものだって作ってあげる
...そしてその時自分のことも名前で呼んでくれたらいいなと思った
あれだけ呼ばれたくなかったのに...今はすごく呼んでほしくてたまらない
「明日は買い物に行かないとな...そうだ!ユウも...」
一緒に外に行こうか?と言いかけて彼は言うのをやめてしまった
こんな格好じゃ出れないし、それには下着とか洋服とか靴とか...あぁ、そうなると首輪も外さなくちゃ...
ユウは外なんか出ないからびっくりするといけないし...
言い訳が頭の中を埋め尽くして彼は考えるのをやめてしまった
まだ外には出したくない
もう少しだけ自分だけのものでいてほしい
彼は自分の中にある、今だに少年を閉じ込めたい欲求に吐き気がした
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