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声
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「けほっ、…ん"っ」
その日はなんだか朝から喉が詰まっていて、違和感があった。
喉が痛いわけではないけれど、
まさか、
「…風邪?」
だとしたらどうしよう。
お世話になってる身なのに、風邪までひいたなんて、なんて迷惑な客だろうか。
けれど、隠したら隠したで先生から何か言われそうだし……。
「やっぱり、行った方がいいかな」
そう思って、先生の部屋に行こうと扉を開けた。
ちょうど開けた時、廊下を二ノ宮くんが通って行った。
僕に気づかなかった二ノ宮くんはそのまま廊下をスタスタと歩いていく。
「あ、」
先生のところに行くならば、二ノ宮くんも呼んだ方がいいのではないか、と思う。
けれど、部屋にある携帯を取りに行ったら見失いそうだし、
かといって追いかけても話す手段がない。
考えていると、角を曲がりそうになった二ノ宮くんに気づき、焦った。
「に、…のみや、くんっ!」
言った瞬間、気がついた。
「あ、声….、出た…?」
同じく僕の声に気がついた二ノ宮くんは、一瞬止まって振り返った後、
状況を把握したのか走り寄って、僕の肩をガシッと掴んだ。
「お前、今声…!」
「う、ん。出る、出るよ二ノ宮君!」
自分でも確認するように、興奮気味に声を上げる。
二ノ宮君はそのまま腕を引っ張って、先生の部屋まで連れていった。
部屋に入った時、本を読んでいたらしい先生は僕らに気がついて顔を上げた。
「なんだ?」
僕はチラ、と二ノ宮君を見たけれど、二ノ宮君は顎を先生の方にクイっと動かしただけで。
ー自分で、言えってことかな。
「先生、あの、声、が」
ゆっくりと、確かめるようにそう言えば、
先生はガタンっと椅子を立ち、近寄ってきた。
「触るぞ?」
そう聞いてきた先生は、頷いた僕を見て、そっと首に手を当てた。
まだ少しだけビクッとしてしまったけれど。
ふっと笑ってくれた。
「まぁ、詳しいってわけじゃねぇけど」
特に目立った異常はねぇから、大丈夫だろうよ、と言う。
「話せる、これでみんなに迷惑かけなくてすむん…」
「バカ。またお前は。」
横に立っていた二ノ宮君が僕のおでこを指で弾いた。
「っ?」
「違うだろ?」
「あ、…」
そういう二ノ宮君の顔は、怒っているようだけどすごく優しくて。
気付いて、いい直そうとした時、扉が勢いよく開いて桜月君が入ってきた。
「会長の声、戻ったって本当ですか!?」
「、うん」
びっくりしたけれど、そこまで慌ててきてくれたのか、と嬉しくなった。
自分が大切にされている事が伝わってくる。
「えと、本当に色々、ありがとうございました」
深く深く深く、頭を下げた。
「俺は何もしてねぇよ」
「俺も特にはな」
「俺もです」
みんながみんな口を揃えてそう言う。
「え、でも…」
「声は、自分で戻したんだろ?」
そう問う先生に、そっちじゃなくて、と言おうとした。
けれど、その目は、僕を見ているみんなの目はなんだかその言葉を拒否しているようで。
僕はそのみんなの優しさに、
「っ、はい」
甘えた。
「これで、学園に戻っても大丈夫そうだな」
といった先生に、ぐっと言葉を詰めた。
「その事、なんですけど…」
多分もうみんな鈴原家のこと、知ってると思うんです。
それに、僕が会長だと、みんなも納得しないでしょうし…。
いい機会だから、
だから
「戻ったら、会長、降りようと思うんです」
自分勝手なのはわかってる。
けれど、これが僕が考えついた一番の方法だから。
父さんも母さんもいないから。
また、平穏な生活に戻ったっていいはずだ。
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