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第三章第一節:魔鏡の鍵2
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sideトド松
僕は急いで駆け寄ろうとして、階段の前で足を止めてしまった。
――ちがう。おそ松兄さんじゃない。
姿形は、角やら牙やら生やしてこそいたけれど、おそ松兄さんだった。
でも、目つきも、息遣いも違った。
何より全身から流れ出ているような、どす黒い気配は、僕の知ってる兄さんとは、似ても似付かない。
僕は数歩後退ってしまった。
「何を怖がっているの?」
兄さんの唇が小さく動いた。
組んでいた脚を組み換え、その片膝に片肘を付き、品定めをするように僕を見下ろす。
「あの…その…」
自分が何を言っているのか、何を言うべきなのか解らずに、ただ冷たい汗が背中を下っていく。
「魔鏡の鍵、知らない?俺は長く此処を離れていたから、在処を忘れちゃって」
「鍵…?」
「そう。魔鏡の鍵です」
後ろから、コツコツと足音を響かせて、ピエロが近付いてきた。
「この魔国は、今でこそ民主主義ですが、昔は完全なる魔王の独裁支配下にあったのです。魔王の強大な力の源は『魔鏡』という妖鏡。魔国は魔鏡と魔王のもとで大変に栄えたものでした。しかし反対勢力は、つき物でしてね。私達は魔国を守るため、魔鏡を兄に、位を弟にと、秘密りに代々リスク分散を図ってきたのです」
ピエロはポンッと僕の肩に片手を乗せた。
「『鍵』とは魔鏡の力を解放させるアイテムです。本来なら兄上様がお持ちなのですがね。兄上様は鍵守、いわば陰の魔王としては、些か邪気が強過ぎたのです。一般の悪魔であれば、邪気は強過ぎるくらいで結構。しかし兄上様は、陰の魔王として、魔鏡と気のマッチングが必須だった。そこで私共は兄上様から邪気を適切に抜き取り、鍵の中に封印しようとしたのです。しかしながら、運悪く、邪気抜きの儀式中に落雷の直撃にあい、兄上様の邪気はショックで全て抜け落ち、記憶にも些かの障害が生じてしまったのです。さらに不幸なことに、翌日宮殿を抜け出した兄上様は地上に迷い込み、そのまま鍵もろとも、行方不明となってしまわれたのです」
「それで、魔王の独裁が終わったの?」
僕は、ピエロを見上げた。
「いえ。私達は何とか魔鏡無しに、政を進められるように力を尽くしました。しかし、当の魔王が、つまりあなたが、独裁支配に疑問を抱くようになってしまい、大胆にも死神を味方につけて、反乱を起こしたのです。それで終わったのです。独裁支配が。…もし、兄上様があなたの側にいらっしゃったら、魔鏡の加護を受けていたら、あなたは道を外すことなく、今でも本来あるべき魔国が続いていたのです」
ピエロはいかにも無念とばかりに首を振る。
「しかし、もう大丈夫です。現に今、兄上様も、あなたも、時を経て戻られました。後は、魔鏡の鍵さえ見つかれば、戴冠式を執り行えます。そしたら、直ぐにあるべき魔国を取り戻せるでしょう」
「嫌だっ!」
僕は思わず叫んだ。
「僕は家に帰る!ここは嫌だ!兄さんと一緒に帰るから!」
「あらあら。困った王子様ですね…」
ピエロが薄気味悪く笑った時だった。
ガタンッと勢いよく兄さんが立ち上がった。
「鍵の臭いがする…」
***
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