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「──どうしましたか?」
突然かけられた声に、俺はうつむいていた顔を上げる。そこには、白衣を着た優しそうな男性医師が立っていた。
「別に…なんでもありません。」
「……隣いいかな?」
俺は「はい」と言わず、小さく頷いた。
横目でその医師の胸元を見ると、“長谷川"と書かれたネームプレートを下げていた。
「さっき運ばれた女の子、ご家族の方ですか?」
「…そうですけど」
「何か大変そうな事情があるみたいですね」
「・・・・・・!!」
俺のことを見て小さく微笑みながら長谷川先生は言った。
なんでわかったんだ?俺の顔に、なんか出ていたのか?
「辛そうな目をしていますから。僕の担当の子達は皆同じような目をしています…。悲しいことがあったのですね」
俺の心を読み取ったかのように、長谷川先生はゆっくりとした口調で言った。辛そうな目… ?
そんな目をしていたのか、俺は……。
「家族というものはね、一生関わっていくものです。たとえ何か小さなことですれ違ってしまっても、何かが欠けても、気づいたら元に戻っている。それが“家族”です。何があっても、"家族"という関係はなくならないんです」
何が言いたいんだろう。
長谷川先生の言いたいことがいまいちわからなかった俺は、小さく首を傾げた。
「どうか忘れないでほしい。失ったものの存在が大きければ大きいほど、悲しい思いをする。だけど、そこで立ち止
まっていたら、いつまでたっても未来は変わらない。明るい未来のためにも…立ち止まらずに前を向いて歩いてください。悲しい思いを抱えたままでもいいのです。無理に精算しなくて良いです。悲しみは人を強くします。立ち上がる力の出し方を覚えますよ」
何もかもわかっているかのように話す長谷川先生。
長谷川先生の言葉が、俺の胸を揺らした。
……俺は、たしかに立ち止まっていた。
おふくろの死が頭から離れなくて……。
そんな俺に対して、いつもの生活に戻ろうとしていた遙さん、健吾さん。
……そうだったんだ。遙さんと健吾さんは、おふくろを忘れたわけじゃなく、前を向いて歩いていただけなんだ。
そんな中、健吾さんは道を少し誤ってしまったのかもしれないし、遙さんはストレスを溜めていたのかもしれない。
だけど、2人とも悲しみをかかえたまま、明るい未来のために頑張っていたんだ。
なんで…どうしてこんな簡単なことがわからなかったんだろう…俺は自分のことばっかりで…
俺は勝手に勘違いして、2人がおふくろを忘れて、最初からいないかのように過ごしていたのかと思っていた。
バカだな…俺。あんなに、仲が良かったのに…全然家族のこと、分かろうとしてなかった。
健吾さんも、遙さんもは、天国にいるおふくろを安心させるために、わざと明るく過ごしていたんだ。
なんで、今さら気づくんだろう。
“家族”とはそういうものだった。
たとえ、何か欠けても支え合っていくものだ。
おふくろの死にしがみついて、俺はあの事故の日から動いていなかった。
立ち止まって変わることを恐れていたんだ。
でも、それは、おふくろを忘れることとは違う。
前を向くことを、怒るようなおふくろじゃなかった。
頭ではわかっていたのに…
「僕の最近の担当の子がね、とても暗い目をしていて、それはとても綺麗な目なのですが、悲しみを取り除いてあげられないのですよ。君には、少し、明るみが戻りましたね。良かった。僕の言葉が少しは伝わったようですね」
そう言って白衣からハンカチを出して渡してくれた。
「見ず知らずの人間に、すみません。お恥ずかしい」
俺の目からは初めて、おふくろが亡くなって初めて涙が出た。泣く資格なんかないと自分を叱ってきたから…
「長谷川先生!みっくんが熱を出して……!」
そのとき、ひとりの看護師が現れて長谷川先生を呼んだ。
「わかった。じゃあ僕は行くね。元気を出して頑張って」
長谷川先生は優しい表情でそう言うと、ハンカチをスっと渡してから立ち上がって、看護師のあとを追った。
長谷川先生、ありがとう。
俺に家族の大切さを気づかせてくれて、ありがとう──
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作者「長谷川先生がわからない方は無表情美人をぜひ読み直そうね!出てきてるよ!!」
「割と喋るよね長谷川先生って」
「あ~、いい人だなぁってイメージしかねぇや」
作者「あとちなみに先生のセリフくそ長いけどノンブレスだったら面白いなとか思いながら書いてるよ!」
「いや、おい。シリアスシーン」
「長谷川先生可哀想…」
作者「続きもよろしくね!!!」
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