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ビギナー7
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(神田語り)
よそん家のソファで、うとうとしていたらチャイムが鳴った。両鼻にはティッシュが詰まっている。吐き出された熱は収まりつつあり、盛大な眠気と戦っていた。
宅急便かなと思って再び目を閉じると、ソファを軽く蹴られた。何だか嫌な予感がする。
「おい、神田、お迎えが来たぞ。あれ、寝ちゃったかな。」
熊谷先生の声だ。お迎えって何だよ。俺はここで眠りたい。葵さんの匂いがするタオルをギュッと握り、身体を更に縮こませた。
「紘斗。帰るよ。起きてるだろう?」
ん?聞き覚えのある声と、葵さんではない懐かしい匂いがした。その人が誰かは瞬時に分かったけれど、知らないふりをして眠り続けられる……訳がなかった。
「な、なんで、春馬先生がここにいるの。びっくりしたんだけど。」
「熊谷から連絡もらって、引き取りに来た。さぁ、帰ろうか。」
反射的に起き上がった俺に春馬先生が答えた。学校帰りなのか、数時間前まで一緒に居た時のままの格好だった。半笑いの春馬先生に鼻栓を抜かれて、死ぬ程恥ずかしくなる。
鼻血、止まっててよかった。垂れたら思いっきり笑われてた。
「俺が連絡したんだよ。仕事帰りの片桐に送ってもらえば一石二鳥いや、それ以上の価値があると思う。葵、神田の鞄持って来て。」
「はーい。鞄どうぞ。あ、鼻血止まったね。よかった。また遊びにおいで。ご飯も一緒に食べようね。」
葵さんに優しく頭を撫でられた。
「は、はぁ……また来ます。」
あれよあれよという間に、玄関で靴を履いていた。最後に葵さんへお礼を言うと、『片桐先生とよく話し合って、逃げたいのを少し我慢してみて。きっといいことが起こるよ。幸運を祈ってる。また後で教えてね。』と、こっそり耳打ちをされた。
そして、熊谷邸を後にしたのだった。にっこにこの熊谷先生が、手を振りながら葵さんの肩を優しく抱いていたけど、見ないことにする。最近の熊谷先生は、理不尽なくらい俺に優しくない。
流れる景色を助手席からぼーっと眺めていた。春馬先生と外で2人きりになるのは、考えてみたら初めてかもしれない。準備室以外では会ったことがなかった。
「紘斗……何か怒ってる?」
暫く無口だった春馬先生が口を開いた。話しかけられただけで、息が苦しくなる。
葵さんに言われたことを思い出して、深呼吸しながら我慢した。
「別に、怒ってません。」
不機嫌な口調になってしまい、内心焦ってあわあわするも、春馬先生が気にしている様子は無かった。安堵して、会話に耳を傾ける。
「俺は回り道が嫌いだから単刀直入に言うけどさ、紘斗が俺のこと嫌だったら我慢しなくていいよ。付き合うとか、言葉の縛りに従わなくてもいい。ただな、自惚れかもしれないが、俺にはどうしても紘斗に嫌われた気がしないんだよ。だけども、避けられてるのは分かるから悩んでるんだ。紘斗は俺が嫌いか?」
車が路肩に停まり、ハザードランプを点滅させた。チカッチカッという音がリズムよく聞こえる。もう、逃げずにちゃんと向き合うんだ。
シートベルトを外して、春馬先生がこちらを見たが、目を合わせるのはレベルが高く無理だった。だから、少し視線を外して小さく答える。自分の気持ちを言葉にするんだ。
「きらい、じゃ、ないです。」
顔を覗き込まれ、前髪をさらりと撫でられる。反射的に身体が避けようとするも、春馬先生の手が俺を捉えた。く、苦しい。今すぐこの場から逃げたくてしょうがない。
温かい手が頰に触れたので、緊張がマックスになった。
「そうか。じゃあ……好き、かな。」
「……うん……すき。。すきです。」
すき、すき、すき…………言葉にして伝えると案外すんなりと沁みてきた。
「2回言ったな。嬉しい。」
突然顔が近づき、柔らかいものがふわっと唇に当たってパニックになる。
「逃げないで、もう少しリラックスしてみてよ。」
「そ、そそそんなの無理です。お、俺……春馬先生が好きすぎて、訳分からなくなるからっ……ひゃぁ、ふぐぅ………」
今度は逃げずに目を閉じた俺に、舌がノックを始めた。
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