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ビギナー10
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(片桐先生語り)
紘斗と連絡が取れなくなってから、3日経つ。元々彼の授業を受け持っていないから、会えるのは放課後のみだった。唯一の放課後も来ず、電話もメールも無視されていた。
3日前に車でしたことは後悔していない。そりゃまあ、紘斗があんなにうぶなことには驚いた。俺の思う所の斜め右上を行っている。
これは俺の性癖の問題だが、真っ白を汚すことがこんなにも気持ちが良いものだとは思わなかった。今まで処女は面倒臭くて避けることが多く、好きだの愛だのを語られると寒気がしていた。愛は無くてもセックスはできる。
年のせいだろうか、自分好みに相手を染めるのも悪くないと思うようになっていた。寧ろそっちの方が良いくらいだ。
恋愛を楽しいと感じるのは久しぶりだった。ただの性的欲求を解消する相手ではない。心と心が惹かれあう感覚は、遥か昔に感じたことがあったかもしれないが、思い出せなかった。
故意的に避けられていることは分かっていた。半年近く紘斗を見てきて、これは恥ずかしさから来るものだと、ほぼ確信していた。
きっかけさえ持てば、元に戻れる気がする。
放課後、顧問だから仕方なく弓道部に顔を出した。大会前だから付いて教えないといけないのだが、部長に後を頼んで準備室へ戻ることにする。
もしかしたら、今日こそは紘斗が来てるかもしれない。淡い期待を胸に階段を上った。
4階まで来ると、弾丸の様に走ってきた生徒とぶつかった。
「いったぁー。あ……春馬せんせい。」
「痛ってぇ。前見て走らないと……どこの小学生だよ。怪我するじゃないか。」
飛ばされるように、紘斗が廊下に転がる。
俺が呼んでほしいと伝えると、律儀に下の名前で呼ぶようになった。嫌がればいいのに、恥ずかしそうに呼ぶ仕草が可愛い。だが、3日ぶりの紘斗は何やら他事で頭がいっぱいのようだった。
「すみません。ちょっと急いでて。早く行かなくちゃ。」
立ち上がり、再び走ろうとする紘斗の腕を引き寄せた。ここで逃げられたら、暫く会えないかもしれない。目線が何かを捉えようとしていてるが、焦点が合っていなかった。
「何をそんなに急いでいるんだ。」
「え、あ、あの、病院に。ばあちゃんが、ばあちゃんが倒れて。父さんから電話が来たから、ええと、会いにいかなくちゃ。ばあちゃん、ばあちゃん……ばあちゃんに。」
錯乱したように『ばあちゃん』と呟き続ける。紘斗は父子家庭で、祖母に育てられたのだと聞いたことがある。ばあちゃんの存在を大切な宝物みたいに語ってくれた。
俺は転がったリュックを拾う。背負いもせず、抱えて走るとか急ぎすぎだろう。
「紘斗、落ち着け。おばあちゃんが倒れたんだろう。どこの病院なんだ?」
「びょ、病院……どこだろ……分かんない。でも倒れたって。」
「病院が分からないなら、会えないじゃないか。深呼吸しろ。思い出せるか?」
小さい子供の様にうずくまって、膝を抱えて考えている。それでも分からない、と彼は項垂れた。
驚き過ぎてすべての情報が飛んだのだろう。俺は、もう一度お父さんに電話して確認するように伝えた。震えながら携帯をタップする仕草に庇護欲がきゅんと震える。
電話中に紘斗の手を握ってやると、弱々しく握り返した後、小さく笑った。
「〇〇病院だって。ばあちゃんに会いたい。不安だろうから、側にいてあげたい。」
ここからだと車で小一時間以上かかる地元の総合病院だった。時計を見ると、5時を指している。今から渋滞に巻き込まれても、7時前には着くだろう。
「よし、今から行こう。準備してくるから待っとけよ。」
「春馬せんせいっ……」
勢いよく立ったら、シャツの裾を引っ張られて、一瞬よろける。今度は何だ。
「……あのぅ……ありがと。」
紘斗がはにかむように、ふわりと笑う。泣いた跡の色付いた目元が痛々しい。
一瞬全てがピンク色に見えて、目眩がした。
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