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夢の外へ8
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(葵語り)
キッチンに食器を下げた後、雅さんの席へ戻った。いつの間にか、ベビ雅ちゃんは寝てしまっていて、同じ名前のお兄さんの腕で夢の中にいた。耳を澄ますと、ぷぅーぷぅーと鼻息が聞こえてきたのでほっこりとする。
暫く仕事をお休みしていた雅さんはもうすぐ再稼働すると張り切っていた。そう言えば、轟さんのブログも暫く更新されていない。先月コンビニ前でばったり会った時、イギリスに行くって言ってたもんな。色々と忙しいのだろう。ただ、何かを知っているような島田は雅さんの身体をしきりに気遣っていた。
「ねぇ、雅さんはどうして今の仕事に行き着いたの?雅さんなら何でもできるでしょう。」
敢えて縛られる必要ないのに……と、アングラにいることを後付けで知ったファンが必ず思うことを口にした。
「うーん。高校卒業の時、なんとなく入った感じかな。思ったより居心地が良くて、気づいたら今になったみたいな。だから、あんまり俺の意見は参考にならないと思う。」
知らないうちに進路についての話題になっていた。高校を卒業して緊縛の世界に入って、居心地が良いからそのままいるなんて、なんて理想な進路の選び方だろう。思わず前のめる。視線を落とすと、雅さんの指にはシンプルなシルバーリングが光っていた。
「マリちゃんの将来は決まってるの?」
「僕?僕はね、もう決まったよ。保育士になるの。」
「素敵じゃない。いいね。」
「ええーーー、聞いてないけど。なんで?大学でやってることと全く違うじゃないか。」
俺が大きな声を出して驚くと、2人は目を丸くしてこっちを見た。ベビ雅ちゃんが起きるからと島田にたしなめられて、しゅんとなる。
「だって言ってないもん。ついこの間決めたの。後期になったら授業数が減るから、並行して専門学校へ通うんだ。もうスーツ着て就活もしない。高校の頃から真面目にバイトをしていたから、専門学校に行くお金もあるし、僕は結構計画的でしょ。雅さん、褒めて。」
「えらいえらい。マリちゃんは堅実だね。いい保父さんになるよ。」
「みやびさーん…………ありがとー。」
よしよしと雅さんがふわふわの頭を撫でて、島田が嬉しそうに甘い声を出した。撫でてもらいたいがために、赤ちゃんを抱っこしている雅さんの手元にまで頭を持っていっている。
全くもって面白くない。同類だと思っていた島田が、一歩、いや二歩以上リードしていて、俺は置いてけぼりにされてしまった。企業展も学内、学外セミナーも1人じゃ行けないし、行きたくない。別に俺は付き添いが無いとどこにも行けないような思春期の女子ではない。就職に限り、身体が動こうとしないのだ。無理、無理と頭が指令を出してくる。
それに、活動してないと先生にも怒られる。自然と頬が膨らみ、口先が尖った。
「マリちゃん、葵君怒ってるよ。いいの?相談もせずに勝手に決めたからじゃない。でも怒ってる顔も可愛い。」
「葵君はね、就職活動自体が嫌なんだって。僕が一緒に行かないことに気付いたんじゃないかな。嫌なら別の道を探せばいいのに、まだ模索中だからさぁ、どうしようもないんだよ。こればっかりは自分で決めないと、葵君の人生だから。」
島田にも突き放されて、未確認生物が残る無人島に1人残された気分になった。途方に暮れる。
「君たちの関係って、本当に親友だったんだね。マリちゃんが一方的に好き好きってアピールしてるだけじゃなくて、突き放したりもするんだ。へぇー意外。では、そんな葵君にお兄さんから朗報です。」
少しベビ雅ちゃんが愚図ったので、綺麗なお兄さんが立ち上がり、彼女の背中を摩りながら俺に話し始めた。
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